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2007年11月 3日 (土)

Out of nowhere ――ロス・プーマスは退屈か?

 準決勝の「南アフリカ対アルゼンチン」を見直してみた。いくつか記憶違いや単純に見逃していたプレーもあった。スプリングボクスのラックでのディフェンスは何度見ても凄い。えげつない絡みも出来るはずの人たちがしかし、ここぞという局面以外ではしつこく絡まずに最小限の人数で守り切るわけだから、プーマスにしてもイングランドにしても、攻め疲れて勢いが止まったり、ミスが出たりと、「ラック連続」の局面でほとんど有効な攻めが出来なかったのも無理はない。

 だからこそ「パスプレー」が重要になるわけだが、ウェールズのことはさんざん書いたから、ここではプーマスに注目してみたい。というか、やはり気になるのである。この試合のクライマックスは実は前半 5 分のプーマスのライン攻撃だったといえる。このアタックの失敗によってアルゼンチンはかなり慎重なプレーを以後は余儀なくされるわけだから、つまりゲームとしてはここでほぼ終わってしまった――少なくとも想定を超えるようなプレーでスプリングボクスを慌てさせる試みは封印されてしまったことになる。
 2003 年大会準々決勝「ウェールズ対イングランド」でのウェールズの一本目のトライといくらか似た感じのカウンターアタックなのだが、ブッチ・ジェームズのキックを自陣 22m ラインと 10m ラインの中程、左タッチ際で受けたコルレトが、相手 WTB ピーターセンを引き付けてから外の WTB アグラにパス(10m ライン上)。アグラは cadrage-débordement (ここでは「一瞬立ち止まってから急に加速すること」)などのテクニックを駆使してライン際で三人ほど抜き(いい方が逆になるけれど、プーマスのウィングは清宮早稲田のウィングに似ている)、少し内に入ってボクス陣 10m と 22m ラインの間で FW にボールを戻す。
 そこからピチョット→F・コンテポミ→PR ロンセロ→右 WTB ボルヘスとつないで、またたく間に右タッチ際、22m ライン手前でラック形成。
 ピチョットはすぐにボールを出して F・コンテポミにパス。コンテポミはフィールドの真ん中に向かって走りながらパスの受け手を探す。この時点でコンテポミの外(つまりフィールドの左半分)には、プーマス 8 人(ラックに 4 人、ピチョット、デコイラン 1 人、負傷で横に伸びている 1 人以外全員)に対し、ボクスは 4 人で、しかも FB がいない。
 コンテポミの数メートル先にコルレトが走り込み、カットアウト(つまり左にずれる)で対面とすれ違う瞬間にパスを受けようとするところを、対面の SH デュ・プレーズがインターセプト(独走トライ、コンバージョン)。

 コルレトの走り込むスピードからして、またデュ・プレーズのさらに外側にはボクス 2 人(14 番ともう一人)対プーマス 5 人でスペースもたっぷりあるという状況からして、トライはほぼ確実だった。決まっていれば大会屈指の美しいトライとなっていたはずだし、ゲーム展開もかなり違うものとなっていただろう。ボクスがやや気を抜いた時間帯だったとはいえるかもしれないが、このアタックの「失敗」(だが何と果敢な失敗だろう)はプーマスのこの後の攻め方にかなり影響を与えたと思う。
 ラックに入ったプレーヤーが、プーマス側が 6・7・10・14、ボクス側が 2・6・8・11・15 という点は興味深い。コンテポミがボールを受けた時点でプーマス側は完全な数的優位にあったが、ボクスの FW 第三列のうち二人と FB をラックに巻き込んでいたわけである(誰かが FB の位置に戻ろうとしてはいたのだが、追いつけていない)。コルレトがやや前がかりになり過ぎた点が惜しまれる。状況を後から振り返るとそんなに慌てる必要はなかった。もっとも、プーマス側も
エルナンデスがラックに参加しており、展開という点で多少影響があったのかもしれない。三位決定戦でのように、思い切って大外にロングパスを放っていたらどうなっていただろうか。

 とにかく、左端で一回、右端で一回ラックを形成したのみで、あとはパスで抜いてトライを獲ろうとしたプーマスの攻撃は見応えがあったし、このチャレンジは十分に称えらるべきである。スプリングボクスがノックアウト・ステージでこのような攻撃を一度でも見せたことがあっただろうか? エディ・ジョーンズは「ボクスが勝った方がラグビーのためにはよい」といったが(本心からそういったのか)、勝ったって特にいいことはなかった。ボクスはチャレンジしないからだ。他のチームが弱かった(潜在的実力を発揮しえなかった)のだからチャレンジする必要がなかったというのはその通り。だが勝負という次元でのチャレンジは不要としても、ラグビーそのものへのチャレンジは可能だし、今回のチームにはそれだけの力はあったはずだから、やはり物足りなさを感じてしまう。

 まあでも、ボクスのことはよい。わたくしが気になるのは、プーマスが新 HC の下どのようなチームになるかという点である。今後も W 杯以外の国際大会に参加しないということであれば、テストマッチ機会が限られるわけだから、勝利を優先した比較的シンプルなゲームプランがやはり主になるだろうけれど、それはおそらくラグビー界にとってはどちらかといえば損失になると思う。

 今大会におけるアルゼンチンは結局のところ何だったか。風が吹けば桶屋が儲かる式にオールブラックス敗退の遠因を開幕戦に求めるのはいずれ生産的とはいえない(悪というなら、負けたフランスがどうしたって悪いのだから)。たとえばユーロ 2004 のギリシャ。歴史的に全く新しい戦術を編み出したというわけではないけれどもあの時点では非常に新鮮に映ったギリシャ・チームの特色をおそらく最も正確に指摘した大住良之氏は、一見古くさく見えるが実はそうではないのだと注意を喚起していた(「ギリシャの優勝で考える「個と組織」の問題」)。同じようなことがロス・プーマスについてもいえぬことはないだろう。だがロフレダのチームは、相手がどこであれ常に同じように戦えたレーハーゲルのチームほど完成されてしまってはいなかった。良くも悪くも。その「新しさ」(そういうものが本当にあるとして)がいかなる種類のものであるか、それを見極めるにはもう少し時間が必要のようだ。

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