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2008年2月 3日 (日)

6 ネイションズ イングランド 対 ウェールズ

イングランド 対 ウェールズ 19-26 (16-6) トライ数 1-2

 イングランドの主将フィル・ヴィッカリーは試合に先立つインタビューで「ウェールズとの試合はいつだって肉体と肉体のぶつかり合いの勝負になる」といった。果たして、2008 年度シックスネイションズ第一節第二試合は肉弾戦で幕を開ける。戦前に予想された通り、FW 戦で圧倒的優位に立ったイングランドはさらに、展開、ウィルコによるドンピシャのキックパス、ラインブレークとやりたい放題で前半を終える。FW も BK も速くて強いという、図らずもワクワクするようなイングランド・ラグビーが見られたわけである。ワールドカップ準優勝は決してまぐれではなかったと感じた人も少なくなかったのではないだろうか。
 対してウェールズは力の入れ所が間違っているんじゃないか――というのがわたくしの第一印象だった。タックルはヒットせずことごとく押し込まれ(SH ゴマソールさえ止められない)、ラックでの被ターンオーバーが前半だけで(約)8、展開もせず、ただズルズルと後退しながらそれでも FW 戦を挑むレッド・ドラゴン。だいたい「バックスリーが穴だから彼らを狙う」とギャットランドは予告していたではないか。

 だから多分、ゲームを本当にコントロールしていたのは、一見そう思われたのとは逆にウェールズだったということなのだろう(結果論としていえば、ということである。2005 年の対フランス戦がまさにこんな感じだった)。
 もちろん偶然的要素はある。たとえば満を持して登場し、鮮やかにラインブレークしたイングランド WTB ストレットルの早々の負傷退場。ラグビー界でタッチライン際が戦略的にクローズアップされてからずいぶんになると思うが、その反動というか、傾向の弁証法的な変化というか、攻守の拮抗するようになったウィングではなく、むしろ横に伸びた防御ラインの一番薄いところ、すなわちミッドフィールドでのラインブレークが最近見かけられるようになった。先のワールドカップ決勝、いずれもトライには至らなかったものの F・ステインと M・テイトによる綺麗なラインブレークがゲームのハイライトとなったことは記憶に新しいし、今日のこの試合でも、前半のストレットに続き、後半はウェールズの CTB ギャヴィン・ヘンソンが(ウィルコに指も触れさせず!)ブレークしている。ストレットが退場したことで――そしてもうひとりのスピードスターであるテイトがメンバーに入らなかったことで――真ん中を無様にぶち抜かれる心配をあまりしなくてもよくなったのである。
 また、イングランドは「今日は楽勝」とでも思ったのか――実際、シェリダンもナラウェイ(No. 8)も両ロックも割と簡単に前進できたのだが――得点を無慈悲に重ねてゆくという感じでもなかったし、ウィルコのキックパスをヴァイニコロがキャッチして生まれたトライは見事だったけれども、それ以外の局面では仕留めにミスが出た。
 こうした幸運も手伝ったとはいえるだろうが、他方イングランド FW の(好調であるがゆえの)消耗は当然予想されたはずである。前半から後半 10 分までのウェールズ側のタックルの甘さも、自らの消耗を防ぐための策だったとさえ思われてくる(1999 年W 杯準決勝でのフランスがまさに同じようにして体力を温存できたことをわれわれは覚えている)。ヘンソンだって、ビッグタックルはひとつもなく、ブレークしたランはステップと加速が素晴らしかったものの、それ以外はおおむねチンタラしていたような記憶しかない。

 スコアが 19-6 となってから、つまりイングランドが前半同様の鋭い出足でウェールズ側の反則を誘って後半最初の得点をあげ、勝利が意識されたまさにその時にゲームが動き出す。ウェールズがブレークダウンを避けてボールを回し始めたからである。最初のうちはミスもあったし、SH フィリップスのさばきが俊敏とはいいがたいこともあって最後までもたつき気味だったが、それでもイングランド・ディフェンスが着いて来れなくなっていることははっきりわかった。さらにいうと横の動きにそもそも対応できるほどディフェンスが組織されていないようにも見えた。2005 年の「セクシーラグビー」を髣髴とさせぬでもないパス・プレー――でもやはりドゥウエイン・ピールとマイケル・オーウェンは必要だろう――がパニックを引き起こす。「パニック」というのは大袈裟ではない。何とウィルキンソンがプレッシャーに耐え切れず、とんでもないパスミスを犯したのだから。受け手が期待の新人シプリアニだったというのは象徴的だが(2005 年の対戦でも新人のテイトとヌーンが苦汁を舐めさせられた)、ティンドルの代りに入ったそのシプリアニの頭上を大きく越してしまうパス、一瞬ラックが形成されるもフィリップスがすぐにボールを出して SO フックへ。フックは緩急と身体のバランスを巧みに使って 3 人のディフェンスをかわし、引きつけてから、大外に走り込む FB バーンにラストパス。素晴らしいトライだった(スコア 19-19)。
 このあとさらにイングランド FB ボルショーのキックがフィリップスにチャージされ、こぼれたところをPR ジェンキンス――このつなぎの瞬間にフランス 2 の解説フィリップ・サン=タンドレは(セール・シャークスのコーチなのに!)興奮のあまり「外だ! トライ!」と絶叫していた――FL ウィリアムズ、フィリップスとボールが瞬く間にわたってトライ(19-26)。ボルショーも不安視されたディフェンスを前半は問題なくこなしていたし、アタックではよいところも再三見られたのだが、最後の最後になって予告どおり狙われたということになるかもしれない。
 同点となった時点で勝利は十分予想されたけれど、さすがに最後の 5 分くらいは胸を締め付けられた。ウェールズ XV にはしかし、狡賢く時間浪費作戦に出るだけの余裕があった。

 公式のマン・オブ・ザ・マッチは SO ジェームズ・フックだが、わたくしとしてはマーティン・ウィリアムズかなと思う。前半のボールへのからみもそうだが、展開し始めてからの働きが実に渋くまた効果的だった。ウィングのひとつ手前にほぼ必ずポジションをとった彼が、抜きにかかるかポイントを作るかの判断を行なっていたからである。ギャットランドが彼を説得して復帰させたのは、こうした役割を期待してのことだったかと感心した。他にもルースヘッドが本職ながら途中交代でタイトヘッドPR に入ったジェンキンスが、シェリダン相手に何とか耐えてスクラム崩壊を防いだのも殊勲だろう。あるいは 15 人ではなく 22 人でゲームを作るという時代が本格化したというべきか。ともあれ、グランドスラムなどと大きなことはいわないが、優勝にいくらか近づいたようには思う。

 イングランドの方は負傷者の具合が関係するにせよ、ともかくメンバーの再編が必要だと思う。ゲームリーダーの不在はそれこそゲームを通じてしか克服されえないわけだが、例えば FB にルーシーを呼ばないとすれば、ディフェンス面だけ考えても、W 杯決勝で J・ロビンソンの後を何とか埋めたテイトを起用すべきだろう。また、ターンオーバーの数では圧倒した(概算で 10-4 くらい)ものの、被ターンオーバーの大半が実はウィルキンソンだった点を考慮して戦術を立て直さないといけないのではないだろうか。

 ***

 第一試合アイルランド対イタリア(於ダブリン、クローク・パーク)はミスの多さの割には楽しめた。勇敢なプレー、忠実な(基本に、仲間に)プレー、そしてアイルランドの方はさまざまなコンビネーションプレー(シザース、リターンパスなど)やキックパスなど応用プレー。16-11という点差以上に実力差はあると思うが、アイルランドBK のコンビネーションはたとえばフランスに通じるのか、イタリアは過去二年で整備された――かに思われたがNZ にはあまり通用しなかった――ライン・ディフェンスが元に戻ったように見受けられたがどうするつもりなのか、そもそも点の取り方がまだ定まっていないように見えるのだが(この辺りはジャパンにも通ずる課題)、どうするのだろうか、といった疑問が浮かぶ。イタリアはプレーヤーひとりひとりは身体も強く、前だってよく見えているのだが、どうも決め手に欠けるというか。アタック時のラインはフラット過ぎて全然効果的でなかったが、カウンター狙いだと結局こうなってしまうのだろうか。

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