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2008年3月17日 (月)

6 ネイションズ ウェールズ 対 フランス、イングランド 対 アイルランド

イングランド 対 アイルランド 33-10 (13-10) トライ数 3-1

 戦前はどうなることかとも思われたが、イングランドの快勝に終わった。フライハーフ変更の直接の影響というより、ウィルキンソン先発落ちで「喝」を入れられた XIV が――とりあえず――覚醒したということだろうと思う。FW も完勝とはいえないにしろ、負けている部分はなかったし、何より組織(つまりはチーム)としてだいたいのところはよく動けていたと思う。俺の時になぜそれが出来ないんだ――とはウィルコは思わなかったろうけれど、このマッチに限っていえば「ウィルキンソン・ショック」は確かに効果があったといえる。クラブの同僚 J・ヌーンも大いに刺戟されたようである。とにかく、イングランドチームが大会第一節ウェールズ戦の前半のように魅せるラグビーに挑んだのは、彼ら自身にとっても観る者にとっても慶賀すべきことだった。

 アイルランドは前半にとても綺麗な展開でトライを奪ったものの、バックスの中心となるべき FB マーフィ退場の影響もあってか、以後はイングランドのディフェンスに対応され、ほとんど完璧に抑えられてしまう。三次攻撃以降でのミスの頻発に加え、今日は FW の組織プレーが――仲間に対する忠実なサポート、それが大事なのに!――あまりうまく行かなかった。ルイ・コスタやフィーゴのポルトガル代表のように、「黄金世代」はシニア・レベルでついに無冠に終わるのだろうか。

 アイルランドの不調やイングランドの(とりあえずの)覚醒とは切り離しても、シプリアニのゲームメークはほぼ完璧だった。アイルランド側は今日は ROG のキックをむしろ抑えてパスプレーやピック&ゴーで攻めたのだが、「新星」はよく伸びるキックでそれを跳ね返して陣地を奪回しつつ(むろん FW の頑張りあってこそだが)、効果的に展開プレーを織り交ぜる。とりわけ前半はフラットなパスが多用され、ラインを前に前に出すようにしていたのだと思う。このパスが何と言うか、見ていてドキドキした。二本目のトライ(後半)、シプリアニからヴァイニコロ(逆サイドからライン参加)-ウィルコ-ボルショー-テイトとパスが綺麗にテンポよく通ったトライは「本日のトライ」といえるだろうし、さらにウィルコとの間でループを仕掛けたりと、いろいろ工夫も見せた。ラインブレークが 5 回というのはやはり見事である(アイルランドは 1 回)。これが 20 歳か……。
 先発 12 番のフラッドに代わってウィルキンソンが出場し、役割分担をどうするのか興味深かったが、ディフェンス時に位置を交代しただけで、最後まで 10 番のポジションを明け渡すことはなく、プレースキックさえ全てシプリアニが蹴ったのだった(そしてすべて成功)。
 本来ならウィルキンソンもこれくらいのゲームを作らなくてはいけないし、また作れるはずなのだが、コーチもチームメイトも、そして恐らくは本人さえも過去の幻影に囚われ、いまだ抑圧の中にあると見受けられる。それでもウィルコはシプリアニに対して冷静にまた公平に賛辞――「ダニーの新鮮なアプローチによってどれほどの違いがもたらされたか、見ていてわかったでしょう」――を送っており、捲土重来を期すといったところだろう。二人の切磋琢磨を期待を込めて見守りたいが、一方でウィルキンソンはセンターで(少なくともしばらく)やればよいのではないかともわたくしは感じている。六月のオールブラックスとのテストマッチの際に
は、少なくとも一試合はシプリアニで臨んで欲しいものだ。ただし、12 番は 12 番で別にきちんと育てなくてはいけないので、フラッドなり誰なりを引き続いて起用し、ウィルコは 13 番に置くのがいろいろな意味でよいように思う。

 *

ウェールズ 対 フランス 29-12 (9-6) トライ数 2-0

 ユナイテッド・キングダムの未来の王位継承者が臨席した「優勝決定戦」は、多くの人がそう見た通り、ディフェンス力にまさるチームが制すこととなった。第一王子の称号が「プリンス・オヴ・ウェールズ」であるということはつまり(歴史的経緯は措いて)たとえスコットランドの独立を許すことがあったとしても、ウェールズは絶対に手放さないということでもあるだろう。そこにウェールズの(「想像された共同体」の水準での)悲哀があるわけだが、ともかくこのディフェンシブなマッチにもレッド・ドラゴンの持ち味が発揮された点を嬉しく思う。フランスも積極的にボールを回して攻めてくるわけだから、守る時間が多くなるのは当然であり、互いに攻め合いながらの最終戦は、W 杯決勝とはやはり違ったものとなった(ちなみに日曜の『レキップ』紙はジェイク・ホワイトとエディ・ジョーンズのコメント、というか放言を掲載していたが、二人とも、大会全般とウェールズ優勝に辛い評価を下している)。

 スタッツ(BBCとレキップとで多少異なる)。

ボール支配率 W 40 F 60 〔レキップ W 44 F 56〕
ターンオーバー W 4 F 2
タックル W 128(ミス 6)  F 79(5) 〔レキップ W 144(3) F 100(5)〕
ラインブレーク W 4 F 1 〔レキップ W 5 F 2〕

 他にはキック数は 40 前後でほぼ同じ。大会を通じどのチームもミスが多かったが、それは仕方ない。ともかく、フランスの攻勢に対し、ウェールズは 144 回タックルさせられながらタックルミスを 3 回に抑えるという驚異的なディフェンス力を発揮した。フランスの方も数字としては十分に立派だが、他方でラインブレーク数の差は、実際にゲームを見ていれば納得が行く。仕掛け(キックによるものも含む)の有効性、パスの多彩さにおいて、ということは要するに攻撃力でもウェールズが上回っていたのは明らかだった。フランスの「攻勢」とは書いたものの、実際のところ、ボールを回してもあまり突破できる感じはしなかった。イングランド戦同様、その展開はディフェンス側の想定を超えることがなかったということになると思う。前半にウェールズがトライチャンスを逃した場面、スペース的にはタッチ際に詰まってしまい、数メートルのうちに三、四人が犇く状況になったものの、ディフェンスが対応できていなかったために WTB のマーク・ジョーンズが抜け出すことのできた場面が象徴的である。ポジショニング、パスのタイミング。今日のフランスには結局こうした形が作れなかった。
 ウェールズはいつにもまして極端なブリッツ・ディフェンスを敢行した。ほとんどの局面でギャヴィン・ヘンソン(とトム・シャンクリン)がディフェンスの文字通りの要としてラインを押し上げ続ける。そこをすれ違いざまに抜くというやり方しかフランスには残されていなかったが、スクレラのパスに対してジョジオンがやや前がかりになりすぎ(あるいはシャンクスのタックルがパスの軌道を狂わせて)こぼれたところをシェーン・ウィリアムズに拾われて、形勢が一挙に傾く(トライ、コンバージョン)。

 別の観点からいうと、タックルに若干難のあるジェームズ・フックが 10 番にいる間にフランスは何とかしたいところだった。事実、シンビンが適用されたヘンソンのハイタックルは、10 番と 12 番の間がやや広くなっているところをついたフュルジャンス・ウエドラオゴにフックが腕だけでタックルに行って抜かれかけたところを、ヘンソンが飛びついて止めようとしたために起こったものである。ここにジョジオンかトラン=デュックがいればと思った(ウエドラオゴにケチをつけているのでも、ヘンソンの反則を正当化しているのでもない)。

 これまで 100 %の成功率を誇っていたフックのプレースキックの不調は誤算だったはずだが、比較的速い時間に、つまり 9 対 9 と同点に追いつかれてから間を置かずスティーヴン・ジョーンズを投入したのがよかったのだろう、攻めのスピードがいっそう増したように思われた。スピードとは、パスの単純な速さではなく、ボールとプレーヤー双方の動きが組み合わされたラグビー固有の運動のスピードのことだが、フランスは他の四チーム同様、次第についてゆけなくなっていった。
 気持の上では S・ウィリアムズのトライで切れてしまったとの談話(L・ナレ)もあり、仕方ない面はあるけれども、後半の後半、敵陣深くのスクラムとラインアウトでボールを奪われてしまったのが痛かった。スクラムをウェールズが押してボールを奪ったのには驚かされたが、ナレによれば、ボール投入のタイミングが上手くゆかず、やり直しを命ぜられると勝手に判断して力を抜いてしまったそうである。試合終了間際にはラックサイドに穴が出来たところをマーティン・ウィリアムズに突破され、決定的なトライを許してしまう。ここでタックルを外されたのはジョジオンだったが、もちろん個人のレベルの責任ではない。

 六月に南アフリカとウェールズとのテストマッチが組まれている。シックスネイションズの覇者と世界チャンピオンとの対決ということになる。六月までゲームはないわけだから、好調が維持できるかどうか怪しいけれど、ボクスも世代交代の時期であり、どれくらいやれるか楽しみである。というか、いま南アと試合をやれば結構よいゲームになるのではないか。南アだけでなくフィジーとも。再来週あたりに。とにかく、フィットネスで他を圧倒し、ディフェンスを大幅に向上させ、つねにラインブレークを狙うというウェールズのラグビーが勝利した今大会は、ファンとしては満足ゆくものであった。

 フランス・リュグビーメンの解説はラクロワにしろサン=タンドレにしろ、何だか妙に可笑しい人が多いのだが(サン=タンドレはふつうに喋ると声が裏返りまくるのに、興奮するとまともな「男らしい」声になるのがとても不思議だ)、ファビアン・ガルチエも負けていない。マーティン・ウィリアムズのトライにつながる WTB ジョーンズ(今大会あまり目立たなかったが、純粋な足の速さを見せ付ける機会が訪れた)の 90m 独走の間、ガルチエは「Il va très très vite(非常に非常に速い)」と八回連続でいい続けた。よく舌を噛まなかったものだ――というか「見たまんまやん」、あるいは「なんで八回もいうねん」。ここはそもそも、ウェールズ陣深く入ったところでのマイボール・ラインアウトが奪われ逆襲された場面で、要するに最後のチャンスが潰えてしまったための絶望から来る放心状態だったのだろうと愚考するが、ともかくその飾らないキャラクターが、アナ(南部出身と思われる)ともども非常にいい味を出していた。

 日曜夕方の Stade 2(フランス 2 週末のスポーツニュース番組)にレ・ブルーのヘッドコーチの三人が招かれ、それぞれに総括を行なった。そこで述べられた事柄には取り立てて書き留めるべきことはないけれども、いずれにせよ世間が新体制を(とりあえずは)暖かく見守ろうとしている印象を受けた。偉大な元主将とはいえそもそも代表監督未経験のガルチエによる総括(ビデオ出演)を聴かされるというのは――テレビは何でもかんでも「ショー」として消費するといったもっともな分析はさておき――人によっては屈辱と感じるはずだが、コーチたちも足りなかったところを素直に認めるなど、「外部評価」を真摯にまた謙虚に受け入れていた。要するに「方向性は間違っていないはずだからこの調子でがんばってくれ」というエールが贈られたわけなので、わたくしも今後に期待を込めつつ見守りたい。

 *

イタリア 対 スコットランド 23-20 (10-17) トライ数 2-2

 アズーリ、今大会初勝利おめでとう。勝ち越しのドロップゴールを決めたマルカート(21 歳)は次の試合から SO を務めることになるだろう。ボールがよく動き、見応えのあるマッチだった。

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