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2008年3月10日 (月)

6 ネイションズ アイルランド 対 ウェールズ、その他

アイルランド 対 ウェールズ 12-16 (6-3) トライ数 0-1

 戦前の予想ではアイルランドが「4 点差」で勝つということになっていたのだが(プラネットラグビー)、なぜそういうことになるのかわたくしには全くわからなかった。BOD の調子が上がらず、ダーシーに続いてマーフィーやデンプシーまで離脱してしまったアイルランドには、ROG のキックと、FW による「魂のラグビー」(何故かいつ見ても感動的ではあるが)しか残されていないのだから、ということはつまり、プレーの質を問わなければ、この日のアイルランドは形式的にはイングランド、イタリア、スコットランドとほぼ同じということであり、ウェールズが負けるとはとうてい思われなかったのだ。その三チームから 11 トライを奪い、他方、ディフェンスはずっと危うい部分を抱えたままであるにせよ、それでも計 2 トライしか許していないという戦績はいま少し考慮されてもよいのではないか〔試合のスタッツ―― WAL パス 147 ラインブレーク 7、IRE パス 75 ラインブレーク 3〕。

 実際、ウェールズの展開プレーにアイルランドは対応しきれていなかった。とはいえディフェンスのプレッシャーはこれまでで一番厳しかったし、仕留めの段階で相変わらずミスが多い、フィリップスとフックは仲間のことを忘れて個人プレーに走る癖が矯正されていない、おまけにフィリップスは短気なところが全く改善されていない(これでは体格に物を言わせるただの暴れん坊ではないか)――などなど、まだ未完成のウェールズはこの試合ではトライ数 1 に終わったけれど(悪質な反則による一時退場者が二人出たせいでもあるだろう)、他方で、ブレークダウンの攻防やスクラムで引けを取らず、数度きれいにラインブレークされてもカバーディフェンスがしっかりしているなど、よい点は依然続いている。荒くれ者を飼いならしつつ、調子を持続してほしいものだ。
 シェーン・ウィリアムズはますます調子があがっており、大型バックス三、四人が犇く狭いところを抜いて取ったトライは見事のひとことに尽きる。彼に必要なスペースを見越して、丁度よいタイミングのパスを放ったスティーヴン・ジョーンズもさすがだった。もちろんこうした個人技は、アイルランドの攻撃を正面から受けて撥ね返しつつ、時間をかけて防御陣形を崩していった結果のものであり、本当に好い試合だったと思う。またフィリップス退場の10分間、経験者でもある S・ウィリアムズが SH を務めたのは漫画みたいだったが(これは賛辞である)、チームの勢いを殺すことなく立派に務めていたのは、このレッドドラゴンがひとつのチームとなっていることの証だろう。

 個人的に不満に思うのは、やはりマイケル・オーウェンの不在である。たとえば前半、ポイントから出たボールがエイトのライアン・ジョーンズに渡り、彼はいつものようにまっすぐラインに突っ込んだが、隣のプレーヤーにパスしていれば、そこでラインブレークできていたという場面があった。ジョーンズはボールキャリアとしての仕事を全うしているわけだが、たぶんオーウェンならパスしていた。そのことが惜しまれる。現実には、相手キックオフのボールをキャッチしたり、攻撃陣形を立て直すべくポイントを作ったり、とにかく強引にボールをキープしたりする役目を R・ジョーンズと 6 番のジョナサン・トマスが確実にこなしているからこそのチーム全体の好調ではあり、難しいところなのだが、無いものねだりとして(ちなみに 2005 年はジョーンズが 6 番、オーウェンが 8 番だった)。

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スコットランド 対 イングランド 15-9 (9-3) トライ数 0-0

 イングランド「期待の新星」ダニー・シプリアニが、先発出場が予定されるマッチの数日前に「ナイトクラブ」へ出掛けたからといって登録を抹消された。BBC サイトの読者フォーラムに一日足らずの間に900近い意見が寄せられたことからして、関心の高さが伺える。中には「ルールは遵られねばならない」という、つまらない正論も散見されたけれど、イングランドがいま必要としているはディシプリンではなかろう! それにシプリアニは、確かに軽率ではあったが、ドラッグに手を染めたわけでも、傷害事件を起こしたわけでも、またフィールドでラリアットや首投げ、足掛けなど悪質な技を繰り出したわけでもない。だいたいラグビー最古のテストマッチを戦った二チームの対戦が「カルカッタ・カップ」なのは、「俺たちはかつてインドにひどいことしたね」と、少なくとも年に一度思い起こすためだろうに(もちろん、現実には、悪いことをしたなどとイギリス人は露ほどにも思っていない)。その悪行に比べれば、クラブに立ち寄ることなんて。とにかく、アシュトンはバカ。ついでに、アンドルーもバカ。
 むろん、雨が完全には止まず、ぬかるみ続けるフィールドでシプリアニが活躍できたかどうか、それはわからない。アタックのプランも定まらぬ状況では、誰が FB をやってもディフェンスと、FW にボールを戻すためだけの「カウンターアタック」に終始した可能性は大いにある。ボルショーも国内では(冷静さを欠いた連中から)ぼろくそに言われているけれど、そう悪いわけではない。われわれはただ、ほんの少し飽きていて、「新星」がテスト・レベルでどれくらいやれるかちょっと見てみたいということにすぎない。

 もっともゲームそれ自体は、創造性という観点からすると非常に苦しかったが、それなりに楽しめはした。ラグビーの未来がここに存在しないことは明らかだが、肉体のぶつかり合いもまたユニオン・ラグビーの醍醐味には違いなく、決して悪いことではない。

 ウィルキンソン、「一度はアンタッチャブルであった」(BBC)ウィルコへの批判が強まっているという。今日のマッチは、まずキックでの陣地獲得が最優先された。そのことは、SH から出たボールのほぼ半分を 12 番のフラッドが受けていたところからも見てとれる。つまりウィルコへのプレッシャーを出来る限り少なくして、有効なキックを蹴らせようということだ。しかし何と後ろ向きの作戦だろう。こんなプランでは誰が 10 番をやったって同じではないだろうか。ウィルコを代えるより、まずアシュトンを代えるべきだ。

 スコットランドはディフェンスが――先々週のイングランドのように――堅かった。SO が早いうちにパターソンからパークスに代わっても影響がほとんどなかったのは、要するに策らしい策が――対フランス戦のイングランドのように――なかったからという、ごく消極的な理由によるけれども、ミスは少なくなっているし、勝ったのは何にしろよかったのではないか。まあイングランドが勝っても同じ感想を記したと思うが。

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フランス 対 イタリア 25-13 (13-6) トライ数 3-1

 イタリアは試合ごとに良くなってきているようで、攻撃面での創造性はさほど感じられないけれど、互いの持ち味を発揮しあう好試合となった。良くなっているというのは例えば、フランスのブリッツ・ディフェンス(ヤシュヴィリを先頭にものすごいラッシュが再三見られた)に対し最初のうちはキックで逃れるのがせいぜいだったのが、次第に対応してそれなりに躱すことができるようになっていったところなどに現れていた。この対応力には素直に感心した。

 フランスの方は、先々週のイングランドなどとは異なってイタリアがボールを比較的よく動かすゲームを仕掛けてきたこともあり、やりたい攻撃ができたと思う。ジョジオンが復帰したのも大きかった。
 
三つ目のトライ(後半)は、左オープンの展開で、アウトサイド CTB の位置に逆サイドからルージュリーが走り込むムーブが上手く決まり、そのまま抜けたものだった(途中出場のトラーユからのパス)。ウィングまで回すと決め込んでしまうと、途中のパスは相手に全く恐怖を与えられなくなってしまう。ひとつひとつのパスが「抜きにかかるか更にパスするか」を相手に考えさせるような仕方でパスプレーを展開すること。それが自然にまた本能的に出来ている(あるいは、そう見えるほどに習熟している)のがウェールズであり、ハイネケンカップに出場したイングランドの幾つかのチームだった。サインではなく、展開の流れの中でこうしたプレーが見られるようになることをフランスに対しても望みたい。
 個人のレベルで気づいたこと。「テレビマッチオフィシャル」に判定が委ねられたルージュリーのトライし損ないは、S・ウィリアムズのハンドオフ技術の高さを感じさせるものだった。自分より小さいウィリアムズのハンドオフをまともに食らって倒されたアイルランドの CTB(?)と、うまくかわしてルージュリーに絡み付きトライを防いだイタリア CTB のミルコ・ベルガマスコの技術差もあるのだろうが、ポイントはやはり、迫る相手から逃げずに腕を突き出せるかどうかである。とにかくあのトライは非常にレベルの高いものだったと、改めて思わされた次第である。

 優勝をかけてウェールズがフランスをミレニアム・スタジアムに迎える来週が待ち遠しい。フランスは FW 戦を避けて積極的に展開してくるだろうから(hopefully !)、ウェールズのディフェンスの真価が今大会でほとんど初めて問われることになるだろうし、ウェールズにしろフランスにしろ、攻撃力が本当に試されることと思う。とくにフランスはイタリア相手にうまく行ったからといって、それがそのまま通用するなどとは思わない方がよい。ウェールズはラインディフェンスにいつも必ずといってよいほど穴ができるにしても、それをただ待つようではつまらない。「扉から入れ」という哲学は、どちらかというと、偶発的な機会を見逃すなというようなことではなく――そんなことは言われなくたって誰でもする――相手に触れさせないで走り抜けられるだけのスペースを自ら切り拓き創造せよということなのだから。

〔追記 結局、ジョニー・ウィルキンソンは先発落ちとなった。ブライアン・アシュトン、お人柄の好さは容貌からも伺えるけれど、監督の「無為無策」はやはり困りものだ(この点は W 杯時からすでに梅本洋一氏らによって指摘されていた)。「プレーヤーの自主性を重んじ、自由にやらせている」? それならまずしかるべき人を選ばないとね。「選んで終わり」は野球のような個人的競技では存外うまく行くこともあるかもしれないが――1985 年の阪神タイガースにはバース・掛布・岡田・真弓がいた――少なくとも FW 戦で優位に立てぬ時の策くらいは講じておかなければならないだろう。ルイス・ムーディなど主力を欠いた FW 陣はとりあえず措いていうと、代えるべきは 10 番ではなく、誰が見ても 11-13 番、とりわけセンターだろうに。
 いずれにせよわたくしはウィルキンソンが必ず10番にいなくてはならぬとは思わないので(Get away from 10, Jonny !)、この際ダニー・シプリアニには大いに活躍――とはいえ BOD 抜きのアイルランド相手だが――してもらいたいと思うし、そのまま SO に定着してしまえばよいとさえ思っている。ウィルコは 13 番、アウトサイド CTB。ハードタックルが売り物のジェイミー・ヌーンと競ってポジションを奪取すればよい。

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