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2008年5月25日 (日)

ハイネケン決勝 マンスター 対 トゥールーズ

 カーディフのミレニアム・スタジアムの観客席が赤で埋め尽くされている。蓮實重彦がこの光景を見れば「やっぱり私は正しかった」と大威張りでいうかもしれない。その赤はしかし、当地のレッド・ドラゴンのためでも、スカーレッツのためでもなかった。三分の一くらいはトゥールーズの応援なのだろうけれど、多くは、赤(プラス白い「勝利の三本線」)のレプリカ・ジャージを着込むマンスターのサボーターだった。

 客席は一様に赤かったが、ゲームの方は、誰もが指摘するだろうとおり、対照的な二チーム間による、かなりわかりやすい「スタイルの戦い」となった。もちろん「フォワードのマンスター対バックスのトゥールーズ」という言い方は、それぞれの傾向を単純化しているだけで、実際にはバランスのとれた好チーム同士といってよい。

 トゥールーズは、9 番から 15 番まで全員フランス代表という状況にはなかなかならないが、この日も果敢に展開プレーを主体として戦い、よいブレークが少なからず見られた――といちおうは言えるだろうが、開始早々に PG を外してしまったエリッサルドが、その後 DG を続けて二回(一本成功)狙ったのが気になった。決勝戦だから効率よくということか? あるいは、とにかく先制点が欲しかったということなのだろうか。しかしいずれにせよちょっと弱気にすぎないか? 確かに、本来の XV ならともかく、当日のメンバーの実力を比較するかぎりでは、スタッド・トゥールーザンが有利とは必ずしもいえない(ちなみにラグビープラネットの予想では三点差でトゥールーズの勝ち)。だが前半終了時点での得点差は 10-6 でマンスターのリードだったのである(トゥールーズは終了間際に PG で得点している)。これはつまり、よいプレーが多数ありながらも、全体として有効性に欠けるということ、そしてマンスターの作戦に沿った形でゲームが推移していたことを意味してはいないだろうか。

 そのマンスターの方は、「ル・ピケンゴー」(いつ頃からフランスで使われるようになったのだろう?)を主体として攻める。ほぼアイルランド代表に等しい FW 陣、つまり W 杯アルゼンチン戦で全く動けず、今年の 6Ns (例えばイングランド戦)でも二列のオコネルが独りむなしく奮闘しただけの――これら試合はまた、オガーラがキック合戦でエルナンデスに、パス合戦でシプリアニに、それぞれ敗れた試合でもあった――FW 陣が今日は最高の働きを見せた。スクラムも優勢だったし、とりわけ三列は攻守にわたって頼もしかった。
 ピック&ゴーはいかにも効率が悪そうに見える。実際、そこだけを注視するなら効率的とは決していえまい。しかし、先にトライをとったのはマンスターだった。トゥールーズのラインディフェンスはいつものように堅固で、パスプレーでの前進があまり期待できなかったことを考えれば、結局この戦い方が理に適っていたということになるだろう。トライは、ゴール前相手ボールのスクラムをターンオーバーし、FW が押し込んだものである。こういう局面でのディフェンスがトゥールーズの課題だというのはわかっていたのだが、まさにその弱点を突かれてしまったわけだ。
 トゥールーズのゲーム運びが今日は少しおかしかったと思うのは、相手 FW が強力なのはわかっているはずなのに、その強いところで敢えて勝負しようとするところがあったからである。ラックからボールが出されエリサルドにパスされる。どう見ても素直に外へ展開すべきところで、しばしば
内に返してラックサイドを再度(駄洒落ですよ)突かせる場面が目に付いた。厳密なスタッツはわからないけれども、相手が初めから――だってピック&ゴーに賭けているんだから!――多く集まっているところにわざわざ味方を突っ込ませる戦術の意義がわたくしにはよくわからなかった。マンスターにとってはむしろ好都合だったのではないか。作戦だったのだろうが、上手く行かなければ途中で切り替えるだけの器用さというか、良い意味での狡猾さがエリッサルドにはあると思っていたのだが。こういうマッチではケレールのような強い SH が活きるということはわかったけれど、負けてしまってはねえ……。

 BK のプレーにも見るべきところはあった。まず何といってもマンスター 14 番のドゥゴゥレット(!)つまり Doug Howlett 。困ったときには右に回すという決まり事でもあるかのようにオガーラが頼りにしているのがよくわかったが、相変わらず攻守に安定していた。前半のトライにつながる場面でのサインプレーでの働きも見事だったが、後半の幻のトライの場面でのランは実に素晴らしかった。
 フォワードパスにより無効とはなったものの、CTB マフィとティポキがコンビネーション(+個人技)でブレーク、パスを受けたオゥレットが、右端をフォローする FB にも助けられつつ、相手 WTB ドンギーと FB エマンスの間を駆け抜けてゴールエリアを陥れる。オゥレットは別カテゴリーなのかもしれないが、「アイランダー」三人衆によるこのアタックがこの日のひとつ目のハイライトだった。スピードの衰えを全く感じさせないことにも驚かされたが、自分より外に位置するディフェンダー(大外の FB をマークしている)の背中に向かって走るコース取りの的確さには脱帽するほかない。エマンスのディフェンスは、本物のランナーに対してはまだまだ脆いところがあるといえるかもしれない。ちなみにアナウンサーは、絶叫しながら実況したあと、「これは痛い!」(Ça fait mal !)と、二回繰りかえして言っていた(そのあと安堵する)。テストマッチではフランス 2 のアナは中立の立場を崩さないのだが、クラブ・レベルだとフランスに肩入れしているのが割とはっきりわかる。

 トゥールーズの方も負けてはいない。まさにトゥールーザンというか、フレンチというべきか、「らしい」トライを、フィールドの同じ側で奪う。迫ってくるハウレットや FB の頭越しにエマンスがショートパントを仕掛け、自らキャッチ、がら空きとなっているゴールに向けてもう一度蹴り込む。ハウレットにずっと抑え込まれていたドンギーと、こうした場面でしばしば決定的な絡みを見せるジョジオンが追いかけて、オガーラと競る。ライン前でオガーラがセーブしかけたところを、ジョジオンが足を伸ばしてゴールエリアまで転がし、ドンギーがタッチダウン。コンバージョンも決まって同点となった。後半 20 分のことである。エマンスは今日も、攻守双方で大いに目立つこととなったわけだが、解説の F・メネルは「ありがとう、セドリック」と、アナは「これこそがトゥールーズです」と、それぞれ二回繰りかえしていた。
 それ以外の場面では、全体的にパスのミス、ハンドリング・エラーが今日も多かった。つまりこの点はシーズン最後まであまり改善しなかったわけで、敗因のひとつに挙げなければならない。

 トゥールーズのこのトライは素晴らしかった。しかし振り返ってみれば、反撃もここまでだった(他に見ものとしては、プルースの SO ばりのタッチキックというスペクタクルもあったが)。同点になってから残り 20 分の攻め合いは、要するに 0 対 0 と同じことだし、確かに見応えがあった。とはいえ、ゲームは結局のところマンスターに支配されていたということになるかもしれない。パスプレーの割合を増やして派手に展開したのが良かったのだと思う。見ていて実に面白かった。おそらく相手の疲労を見計らってそのように切り替えたのだろうが、トゥールーズの方は、ラインディフェンスにはっきりと綻びが生じるようになり、残り 15 分のところでついに反則を犯してしまう。一度、マンスター・ゴール前まで攻め込んだ時はさすがに興奮させられたけれど(起点はエマンス)、堅い防御にしびれを切らしたエリッサルドが、ゴールエリア内に向けて不正確なキックパスを試み、チャンスを潰えさせてしまう。結局、それ以外の時間は自陣でプレーすることになり、PG による 3 点の差を引っくり返すことができずに終わった

 結果からいえば、今日は、マンスターのプレー振りに「これこそまさにラグビー」と感じさせられた。トゥールーズの方は、全体的に消極的だったのが残念だった。負傷欠場者が多いこともあって、危機感が強かったのだろうと推察するが、勝ち目はあまりなかったように思う。

〔追記 どうでもよいことですが、マンスターの濃紺・赤二色づかいのジャージ、微妙といえば微妙ですけれど、パンツが白であるというだけでも、トゥールーズのジャージよりは好ましく思えるし、またツートーンということでいえば、同系統のジャパンのそれよりも洒落て見えます。ラグビー専業のブランドをやはり応援してはいますが、その点を敢えて無視していうと、わたくしはナイキよりアディダスの方が好きですので、ジャパンのジャージを今度 Y-3 にデザインしてもらってはいかがでしょうか?
 
フランス(的なもの)に対して、どちらかといえば厳しい物言いをすることが少なくありませんがそれは、嫌いだからではなく、一時的に滞在しているにすぎない日本人が「フランス万歳!」みたいになるのはとてもとても恥ずかしいことと思われるがゆえ、つまりは努めて冷静に振舞っているということにすぎません。日本に帰ったらもっと普通に応援できるようになるでしょう。
 
あと、中尾さんが以前に触れていらしたけれど、トゥールーズの Millo-Chluski は、フランス 2 では「ミロ=シュルスキー」と発音されています。

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