« チーズ覚書 その 15 | トップページ | 「理想のシネマテークのための百本」 »

2008年11月 2日 (日)

ラシング=メトロ 92 対 コロミエ(Pro D2、於コロンブ)

 パリの北北西、コロンブにあるイヴ・デュ・マノワール競技場で Pro D2 の「ラシング=メトロ 92 対 コロミエ」を観戦する。

 ラシング=メトロ・(ニュメロ・)キャトルヴァンドゥーズ(以下ラシング)、気になってはいたものの、試合を見たことはなく、本拠であるコロンブ競技場も今回が初めてとなった。
 立地は典型な郊外で、集合住宅――ル・コルビュジエ風というよりむしろ、1980 年代のフランス映画、たとえばエリック・ロメール作品にしばしば登場したような団地――が「郊外」的な仕方で、というのはつまりスペースを贅沢に使いながら散在している。
 パリの地下鉄込みで 2.20 ユーロ、時間にして 14 分だから、心理的な距離感に反して実際はずっと近い。大阪市と花園ラグビー場の位置関係にほぼ等しいのではないだろうか。ラシング・ファンの多くは地元、ないし西方・北方から来ていると想像されるが、帰りのパリ行き車中にもちらほら関係者の姿が見かけられた。
 駅から10分ほど歩いて、というか一緒に行った友人となかば彷徨いつつ――日曜午後なのに(だから?)人の気配はあまりなく、やや無気味な感じがした――無事到着する。スタジアム周辺にカフェ等がほとんど見当たらないのは残念だった。

 パリから鉄道の切符を求める場合、目的の駅は Le Stade、英語風にいうとザ・スタジアムだから、考えてみれば結構すごい(現在、事実上のザ・スタジアムはもちろんサン=ドニのスタッド・ド・フランスである)。A (small) tribute to the pioneers というブログに、1920 年代のスタジアムの様子を記録した写真が掲載されている(this blog is really fantastic and truely deserves a visit, so why not go have a look!)。
 知られるように由緒ある競技場だが、現在の収容人数は 7000 とのことで、観客席はいわゆる「メイン」側にしか存在しない(写真からわかるように、フィールドとの間にトラックがある)。全席が屋根に覆われており、雨天観戦には適したスタンドということができる。
 もっとも、空が奪われているともいえるわけで、例えば秩父宮ラグビー場の晴天下のバックスタンドを愛する人(わたくしはそう)は物足りなさを感ずるかもしれない。観覧者数は目算で 2000 人くらい。Stade_yves_du_manoir01

 フランスの応援はイギリスや日本に比べ総じて賑やかといえるだろうけれど、ラシング側の応援もかなり騒々しかった。個人の持ち込む太鼓(バスドラ、大太鼓)の数にまず驚かされたが、屋根にすっぽり覆われた空間にその音が反響し、増幅されていたに違いない。足元から振動が伝わってくるほどだった。

 ゲームについて。
 代表チームの華麗なイメージにもかかわらず、クラブ同士の戦いは、往々にしてフォワードでガツガツ行くことになる(そうなることを決して厭わない)ものだと、かつて豊崎光一はフランス国内事情を伝えてくれた(『GS』)。しかしこの日のゲームは、両チームとも展開プレーを主体としたものだった。コロミエはそういうチームだろうと思っていたのだが、ラシングの方も同じような攻め方をしたということになる。
 新ルール試験導入の影響か否か、わたくしには何ともいえない。けれどともかく、ラックからの「ピケンゴー」が連続するうちに観客の興奮が静かに、だが着実に高まってゆくというような局面はなかったし、他方、ラックに持ち込んだボールがあっさり奪われたり、ペナルティになったりする場面も少なくなかった。双方ともに FW プレーがあまり上手く行っていなかったのは確かである。とりわけコロミエの方は、反則を重ねた結果として、前後半ひとりずつ一時退場者を出してしまった(いずれの場合もラシングに PG を許している)。貰うべくして貰ったイエローカードというほかないが、見方を変えて、ラシングが FW 戦で優位に立っていたということもできるだろう。

 多くの局面で、ラックやスクラムから左または右に形成されているラインにボールが供給されるというのは、確かにスペクタキュラーではある。だが、少なくともこのゲームでは、WTB までボールが回っても抜ける感じはしなかった。ボールをもつプレーヤーが展開の方向に流れながら隣のプレーヤーにパスしていたからである。スピードもスペースもないままライン際で WTB がつかまって倒され、今度は反対方向にボールと人が流れてゆく。この反復はさすがにきつい。どうしたらいいんだろうね――ゲームへの興味をつなぐのにやや苦労して、連れが当然の問いを発する。やはり、結局のところは、真直ぐ走るということになるのではないでしょうかねえ……。
 前にもどこかで書いたことがあるけれど、ラグビーはただボールを横に動かせばよいというものではない。ラグビーに固有の運動があるとすればそれは、ボールの動きとプレーヤーの動きが複雑な仕方で組み合わされることによって作り出されるはずである。グラバー・キックを追いかける場合、あるいはパスされたボールの方向に沿って受け手が「ノビ」る場合など、ボールとプレーヤーがほぼ同一の方向に動くことが鍵となる局面も決して少なくない。だがこのゲームでは、双方のディフェンスがブリッツとドリフトをおおよそのところ完璧にこなしていたのだから、必要なのはむしろ、ボールを横に送りながら、プレーヤーは縦に真直ぐ走ることではなかったか? そのようにして初めて、プレーが展開されるということになるのだと思う(というか、それはごく基本的なプレーである)。スペースを無駄遣いしてはいけません。いけません。
 順位が関係あるのかどうか、相関してはおそらくいるのだろうけれど、ラシングの方にはそれでも、ドリフト・ディフェンスの逆をついて抜け出す(抜け出しかける)ことが何回かあるにはあった。とはいえ、それによって真の展開、真のラグビー的運動が次から次へと誘発されるという具合には結局ならなかった。それが少々退屈した理由である。

 私見では、近年のレ・ブルーもこのような意味でのラグビー的運動を実現することがほとんどできていない(スタッド・トゥルーザンなどトップ・クラブはまた別)。Stade_yves_du_manoir02 B・オドリスコルが全盛期にあったアイルランド、そして好調時のウェールズの展開プレーが人々を魅きつけたのは、そこに確かにラグビー固有の運動(のひとつの形)があったからではないだろうか。個人レベルにおける身体的資質としての something special ――爆発的な加速なり、変態的なリズムやバランスなり――がないとしても、組織プレーによってラグビー的運動を作り出すことは決して不可能ではないはずである。これはテクニックの水準にとどまらない、おそらくは本質的な問題なのだとわたくしには思われる。

 繰り返しになるけれど、ディフェンスは両チームともに頑張っており、最善を尽くしたと思う。試合唯一となったコロミエのトライは事故のようなものだった(キックチャージのこぼれ球)。
 
風向きにかかわりなく、全体的としては首位のラシングがやはり押し気味ではあったものの、決め手があったわけではない。マーテンズも特に目立ってはいなかった。Ce néo-zélandais n'a pas fait de différence en particulier. 1 点差による勝利は、反則の多さ、そしてプレースキックの不調という、コロミエ側の自滅によって転がり込んできたものといってよいだろう。

 不満に感じた点をいろいろ書いてしまったけれども、ゲーム観戦は何ものにも代えがたい体験であり、全体としてはもちろん大いに楽しんだ。いずれまた出掛けることになるだろう。

         *

 気が付くと秋のテスト・シリーズ目前の時期となった。今週末はフランスがアルゼンチンをマルセイユに迎える。ロス・プーマスのメンバーがわからないけれど、エルナンデスが出るなら 50/50 といったところだろうか。心情的には 40/60 でアウェーチームを応援したい。フランス 2 で 21 時から。
 でも正直いうと、ウェールズ対トライネーションズの方がもっと気に懸かる。六月のテストに比較すると、今度は北半球にアドバンテージがあるわけで、期待も高まるというもの。もっともオスプリーズのゲームを見たかぎりでは、主力の調子がいまひとつではあって、まあとにかく大差が付かぬように祈っている。

|

« チーズ覚書 その 15 | トップページ | 「理想のシネマテークのための百本」 »

ラグビー」カテゴリの記事

ラグビー 6Ns ほか」カテゴリの記事

トラックバック


この記事へのトラックバック一覧です: ラシング=メトロ 92 対 コロミエ(Pro D2、於コロンブ):

« チーズ覚書 その 15 | トップページ | 「理想のシネマテークのための百本」 »