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2008年11月29日 (土)

秋のテストマッチ・シリーズ

カーディフ
 ウェールズ 対 オーストラリア 21-18 トライ数 2-2 (11月29日、ミレニアム)

 前半の後半にウェールズが L・バーンのトライと S・ジョーンズのコンバージョンで再逆転(12-10)してからは結果的に一度もリードを許すことがなかったとはいえ、実にスリリングな、残り 2 分で 8 点差(結局は残りワン・プレーで 3 点差)なのにまだ試合の帰趨がわからないという、エイ・リアル・スリラー、そして何より素晴らしいゲームだった。前回のオールブラックス戦の前半も面白かったけど、今日は 80 分続いたのでね。
 わたくしはずっと――この日だけでなく前の試合でもそう――胸を締め付けられていたけれど、奇蹟が起こったというほどではなく、ミスが無ければもう少し楽が出来たはずだし、喩えていえばフランスに勝つようにしてウェールズはオーストラリアに勝ったというところではないだろうか。レ・ブルーは調子さえよければワラビーズやスプリングボクスには割と「ふつうに」勝てるわけだが、レッドドラゴンはまだその域に達してはいない。達してはいないのだが、ワラビーズが特に不調だったわけでもなく、彼らもふつうに戦っていたように見えた。それに、ヘンソンもフックもフィリップスも不在、易しめの PG を二本外し、なおかつラインアウトがボロボロのなかでの勝利だから……あー、俺は何をいってんだろ、とにかく、今日はトライも綺麗に二本取れたし、素直に喜んでいる。S・ジョーンズのドロップゴールには痺れた、というかわたくしはウェールズ国籍が欲しい。そしてミレニアム・スタジアムで失禁するほどの昂揚感を味わいたい。
 対イングランド戦の結果を見て豪州はどれだけ強いのかと驚いていたけれども、単純にイングランドが弱かった、そしてワラビーズはオールブラックスやボクスと比較すれば現時点では一段劣っているということなのだろう。それでもラックの連続によるピック&ドライブは迫力があって、ウェールズは必ず 22 メートル線内に押し込まれることになった。反対にバックスの攻撃は怖さを感じなかった。いずれにせよウェールズのディフェンスは堅かったと思う。
 このゲームは、戦略的なキックが少なかった点で興味深かった。カウンターアタック時のパントは多かったが(とりわけウェールズは、このテスト・シリーズでボール保持の大切さを学ばなかったかのようだった。まあバーンが蹴る分には構わないとすべきなのかもしれないけれども)。
 今日とくに気づいた点は、ウェールズがハーフバックスを交代しなかった点、そしてこれもウェールズ側だが、いつものパスプレーに加えて「オフロード」パスを多用した(多く試みた)点である。この試合に限っていうなら、カナダ戦は除いてトライを取れていないという現実を踏まえて、ボールをより速く動かすこと、流れを(ラックなどで)切らないことを眼目にしたとはいえるだろうが、今後も同様の戦い方になるのかどうか、注目される。シェーン・ウィリアムズまでもがそうだったのだから――まあ彼はふつうのウィンガーよりボールに絡む機会が多いけれど――単純にフィジカリティに傾いた戦法とはいえないはずだが、それでも梅本洋一氏が指摘するような「スタイルの喪失」、いい換えればスタイルの世界的な均質化とどうかかわるのか、見守る必要があると思う。

 (黒ブーダンの付け合せを作るのが面倒で蜂蜜をかけて食べてみた宵に記す。)

マルセイユ
 フランス 対 アルゼンチン 12-6 (11月8日、ヴェロドローム)

 ビジター側の主将フェリペ・コンテポミについて、いつものフランス 2 のアナ:「頭を剃ってますね(C'est rasé)。手を保護するために手袋をはめていますが、むしろ頭の方を……」。
 なんとひどいことを! 公共放送なのに! でもこの人の言い方は何だか憎めない。お人柄だろうか。

 双方ノートライに終わったのは、攻撃時のミス(とりわけハンドリングの)、そしてそれなりに機能した防御のため。前半はキック合戦、とりわけハイパントによる攻撃が目立った。あまり多すぎると飽きてくるけれど、いずれのチームもまだまだチームカラーが固まっていないといえばよいか、とにかく途上にあって、そのなかで勝利も目指さなければならないわけだから仕方ない面もある。

 フランスは試合を通じてそればかり(正確にいうと、一、二回、よいパスの連続プレーがあった)だったのだが、アルゼンチンの方が後半ガラリとやり方を変えて、パスによる展開プレーを主体としたのが、敢えていうなら、退屈寸前のゲームを救ったことになるかもしれない。もっとも、パスがフィールドの端から端まで渡ってゆくという風には行かず、サッカーでいうところの「ワンツー」がほとんどだったことは記しておかなければならない。センターは主将のF・コンテポミも含め、攻撃ではあまり目立たなかった。バックスリーは、誰もが感ずるだろうように、とりわけ「ナニ」コルレトの穴が大きい(一方のウィングはW杯メンバーだけど)。しかし新しいフルバックも無難に役目を果たしてはいた。エイトのロンゴの穴も同様に非常に大きいが、今後に期待するほかない。

 プーマスにも勝機はあったと思うが、今日はエルナンデスのハンドリング・エラーが大事なところで頻発してしまった。彼がパントを自らチェイスするとき、何かが起こる予感をわれわれは抱くのだが――何と言っても「マゴ」だから――、ちゃんと落下地点に到達しているのにポロリとやるのが残念だった。

 フランスの方はといえば、個人技(とりわけピカモールやメダール)が目立った。シックスネーションズまでにはきちんとチームになるのだろうか。

ランス
 フランス 対 太平洋の島々 (11月15日、フェリックス=ボラール)

 ほとんど「エキシビジョン」マッチといえるほどに全く異なる戦法のぶつかり合いだったが、結果はフランスの完勝。印象に残ったのは、太平洋諸島チームの側が、モールを崩そうとしなかったこと。ルールの(一時)変更を知らないのだろうか? それとも崩し方を知らない、あるいはむしろ、地に崩れ落ちるのが単に厭とか? 答として最も面白いのは一番――ではなくて三番だが、うん、そういう戦い方があってもいいと思う。

サン=ドニ
 フランス 対 オーストラリア 13-18 トライ数 1-2 (11月22日、スタッド・ド・フランス)

 思えば、フランスに来て初めて見たラグビーは四年前の同時期、同じ場所、同じ対戦だった。前年のW杯以降不調だったミシャラクがトライをあげるなど活躍し、何とかワラビーズに勝利したのだが、その後確かオールブラックスには完敗したはず。たぶんアリノルドキ、ジョジオン、トライユ、ヘマンスはその日もメンバーだったように記憶する。SO が固まっていないというのは、今も同じだし、最も信頼の置けるキッカーがSH というのも同じ。ただし今回はエリッサルドがおらず、試合にも負けてしまった。

 フランス、勝っていてもおかしくなかった! マッチの勝敗の責任を唯ひとりのプレーヤーに押し付けないようにするというのも団体スポーツでは大切なことと思うが、攻撃面ではまだまだ途上との印象を受けた。ボールがどんどんつながってゆくという場面はほとんどなく、結果的にはやはり個人プレーが目立つこととなってしまったからだ。もともとフランスチームは、たとえばワラビーズなどとは違って、ピック&ドライブでも次から次へとフォローが湧いてきてガンガン進んでゆくという感じではなく、割にゆったりとした独特のリズムでプレーする傾向があるように思うが、そういう次元ではなく、単純に、まだまだ成熟していないということなのだろう。タックルこそ皆がんばってやっているけれども、それだけでは対処にもやはり限界があって、二本目のトライのように、ワラビーズのライン攻撃であっさりトライを与えることになってしまう。
 スクレラは、タッチキックやボックスキック、ハイパントなどは素晴らしかったが、今日はプレースキックだけが不調をきわめてしまった。こういう日もあるんだなあとしかいいようがない。スライスしたりフックしたり、または(して欲しいところで)しなかったり。アタックの起点としては、今日は自らボールを持ってラインブレークを数回成功させるなど、大いに活躍していただけに残念だった。

 豪州の方は、とにかく FW 絡みの反則が多かった。テレビ解説のガルチエなどは、レフリー(南ア・ジュベール氏)が厳しすぎると述べていたけれど、これで勝てたのは運が良かったというにすぎない。このままではウェールズに勝つのは難しいだろう〔※この一文は後から付け加えました〕。
 そういえばバーンズはどうしたのかな。モートロックが 12 番に上がっているということは、ゲームメーカーがギタウだけということになるだろうし、実際その通りだったのだが、この状態だとバックスの攻撃はさほど脅威ではなくなると思う。

            *

 というか、フランス、少なくともここ十年くらいのフランスは、相手を(W 杯の対アルゼンチン戦のように)見くびったりせず、あらかじめ立てた戦法をきちんと遂行して、何が何でも勝とうとすれば、特に「汚い」手を(アルゼンチンのように?)使わなくても勝てるんだよね(W 杯の対ニュージーランド戦がそうだったように)。だからある意味でつまらない――とはいわない。いわないが、でもそうするとフランスのスタイルっていったい何処にあるんだろう? 要するに〈特定のスタイルをもたない〉のがフランス的スタイルだということになるのかもしれないけれど、独りだけメタレベルに立つのって、何だか狡くない? 〈直球とは曲がらない変化球のことだ〉とかいって、いたいけな捕手を痛めつける投手のように(『ドカベン』ですよ、念の為)。まあ速断しなければいけないようなことでもないから、のんびり考えてみようか。

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