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2008年12月15日 (月)

ハイネケンカップ プール第四週

 体調の好し悪しを測る指標は人それぞれだろうが、わたくしの場合それは便通である。体調が本当に良いとき、ブツは、ツルっというか、スルッというか、そんな感じで行儀よく排出される。出口周辺は全く汚れず、したがって拭う必要がない。だいたい一週間から十日に一度くらいはそうした非ラブレー的便事情となるのだが、現在それが三日連続という自己最長記録を更新中であり、ある意味で異変ともいえるこの事態には我ながらさすがに驚きを隠せずにいる。
 もっとも、体調が好いといっても、それをそのものとして実感できるわけではない。わたくしは元来頑健ではあって、ほとんど常に好調を維持しているからだ(こういう人間が前触れのないままコロッと逝くとはよくいわれますけどね)。ただ昔何かで「本当に調子が良いとき、腸の内壁は適度な水分で潤っており、ブツは腸内を滑るようにしてスムーズに移動する」云々という説明を読んだ記憶があるので、ああそうなんだと思うだけである。それでもやはり気分はよくなる。だって拭かなくてもいいんだから。
 というような話を家人にすると――

 あなた、拭いてないの?
 いや、だから、ポイントはそこぢゃなくて……だって、一度は確認してみないと「拭かなくてよい」かどうかわからないでしょう? 紙を見て確認しなければ。
 私は見ない。
 でも、確認しないと、ちゃんと拭けてるかどうかわからないぢゃない?
 見・ま・せ・ん・!
 ぢゃあ俺も見ない。
 ……。
 ……(何なんだ、この展開は? 俺はただ「絶好調」って言いたかっただけなのに……ゼッコーチョー!)。

             *

 そういう次第で、週末にフランス 2 でハイネケンカップの二試合を観戦する。昨日はプール 1 「マンスター 対 クレルモン・オヴェルニュ」、今日はプール 3 の「ペルピニャン 対 ライスター」。

 フランスでは国内一般ニュースで報じられるだけのバリューをもつ「ダン・カルテール初登場」を翌日に控えた土曜、クレルモンとマンスターの二回戦は前週に劣らず面白かった。マンスターはおそらくノックアウト・ステージに出場し、それなりに勝ち進むだろうけれど、たとえばそこで対戦する(かもしれぬ)トゥールーズがこれだけのゲームを演出できるかどうか、やや疑わしく思う。少なくとも今回の二試合は前回大会の決勝より面白かった(王者の順当に勝つゲームが好きではないという個人的なバイアスはあるでしょう)。

 開始から 5 分ほどクレルモンが一方的に攻めるも得点機を作るまでには至らず、その後しばらく一進一退のゲームが続くなか、18 分にマンスター 5 番オコネルとクレルモン 4 番のカドモアのラックでの小競り合いが殴り合いに発展し、カドモアが退場、オコネルは一時退場という裁定が下る。スポーツにおける乱闘が面白いのはなぜだろう? 一番面白いのは両軍関係者が総動員されるプロ野球の乱闘だが、この場合も 2 メートル級の大男二人が殴り合うという、漫画なら見開き枠なしの大ゴマを使って描かれるような出来事であるわけだから、面白いに決まっている。問題は肝腎のラグビーがその乱闘の面白さを超えうるかという点だったが(プロ野球は非常にしばしばそれに失敗する)、それは杞憂に終わった。残り 60 分を 14 人で戦わなくてはならなくなったクレルモンが感動的な――大袈裟にいえばヒロイックな――ゲームを見せたからである。

 オコネルが復帰するまでの 10 分の間に、ゲームの均衡が破れる。それぞれが PG を決め合い、6-3 でマンスターがリードする形となる。15 人対 14 人になってから、39 分にこの試合初のトライが生まれ、マンスターが 11-3 とリードを広げて、前半は終了するのだが、クレルモンの方は、七人でのスクラムをよく耐え(マイボールを奪われたのは一、二回)、果敢にタックルし続ける。そしてボールを奪うとバックス――バビ、ジュベール、ナラガ、マルジュー、フロッシュ――が個人技で、あるいは少人数ながら絶妙のコンビネーションでラインをブレークする。ノックオンなどエラーがあって、トライにこそ結びつかなかったものの、数的不利を感じさせない、いわば頭を使った攻撃は立派だった。キックを最小限にした戦略も奏功したと思う。
 さすがにこれをずっと続けるのは大変だろうとヒヤヒヤしながら見ていたのだが、クレルモンは後半も同様に攻め続け、20 分、ついにマルジューのトライ(+コンバージョン)で 11-13 と逆転する。ナラガ(ジュベールだったかもしれない)が巧みに突破したあとのラックからすぐ出たボールをマルジューが四、五人をかわしてコーナーぎりぎりにタッチダウンしたものである。

 前の試合と同じ展開で、にわかファンのわたくしは祈るような気持ちで観戦していたが、客観的には、クレルモンはラックでほとんど常に、マンスターより多くの人数を使わなくてはいけなかった。この点での効率の悪さ、感動的ではあったのだが、いやな予感というか、つまりマンスターはやはり強いのだなと感じざるを得なかった。実際、逆転した後もクレルモンはずっとゲームの主導権を握って敵陣で攻め続けたのだが、マンスターのディフェンスが反則なしでよく耐えたため、追加点を奪うことができなかった。
 結局、体力・気力とも限界に達してしまったクレルモンの攻撃が途絶えた 36 分、そして 38 分にマンスターが連続でトライを奪って勝負は決まった。クレルモンには残念な結果となってしまったが(あと 4 分耐えていれば!)、悪質な反則も――殴り合いは別とすれば――皆無だったし、大会ベストマッチのひとつといってもよいだろう。
 マンスターはとりわけ第三列が攻守にわたって最高のパフォーマンスを見せた。クレルモンがラックで苦しんだのは、マンスター第三列の働きがあまりに素晴らしかったためである。ふたつのトライもそうだが(もうひとつ、2 番のホランが先週とほぼ同様の形で奪っている)、ラックでの反則スレスレの絡み、タックルの力強さには感嘆した。

 解説はジェローム・カザルブー。彼の解説は、同年代の F・ガルチエや Th・ラクロワのそれと比べ、より中立的と感じられ、また非常に真面目である。この日はアナウンサーが「いちびり」だった。いつものジャン・アベイユー(微妙に南部訛りの残るラグビー一筋の journaliste)にも、ということは結局フランス・テレヴィジョンの面々には、だいたい皆そういう側面がある。
 周知のとおり、アイルランドではプレースキックは、無音といえるほどの静寂のうちで厳粛に執り行われる。そうした静寂を「宗教的な」と形容しながらローラン・ベレは、次第に実況の声量を落としていったのだった。一歩間違えば「悪ふざけ」や「冒瀆」と解されかねないけれど、これは決して侮蔑の表れではない。自分がそういう人間だからよくわかるのだが、この人は単にいたずら好きなのである。つまり、本音では「ほどほどでいいじゃない?」とたぶん思っていて、距離をほとんど無意識の裡に取ろうとするのだが(=彼我の差異を尊重するということ)、言葉として表明することができない場合、その距離感は時に「笑い」となって現れ出る。ベレ氏が実際に声に出して笑ったというのではない。ただ彼のアナウンス自体に、いわば距離感としての「笑い」が体現されていたということである。スタジアムの方はといえば、B・ジェームズが蹴る際には完全な静寂とはならず、数は少ないながらもクレルモン・サポーターが(おそらくは小声で?)声援を送っていた。

             *

 ペルピニャン、勝つには勝ったが、ボーナスポイントを得ることはかなわず、決勝トーナメント進出は非常に厳しくなった。最後のワンプレーでボールをタッチに蹴りだしたのはなぜ? 折角カーターを獲得したのにもったいない(ジャージの売れ行きは好調だそうですが)。

 最後の最後で諦めてしまったのは残念だったが、ボーナスポイントを取るためにということだろうか、ペルピニャンは最初から積極的に攻めて主導権を握ることができた。スクラムはやや優勢、プレースキックは互角と見えたが、クレルモンの場合とは異なり、こちらは後先考えず無理するというより、普通に戦って普通に勝ったという感じである。攻撃では、どちらかといえば短めのパスを巧みにつなぐのが主体だったが(この連携は見ごたえがあった)、いちばん目立ったのは SH のニコラ・デュラン。とくに自らボールをもって走るプレーが効果的だった。
 カーターは今日はむしろディフェンス、好タックルで存在感を示した(プレースキックの正確さはいうまでもない)。もっとも、対面の T・フラッドに抜かれてしまったのを追いかけてようやく止めるという、危ない場面が一度あった。

 ふつうにペルピニャンが優勢なので、もっとトライを取れるかとも思ったのだが(相手のタックルは総じて甘かった)、ライスターの方も後半の後半くらいに調子を取り戻して、点数的には競った試合になった。ラックでの反則によってペルピニャンの攻撃を遅らせようとする場面が多かった、これは評価の分かれるところかもしれない。
 攻撃では FB マーフィーのライン参加が目立ったが、ウィングが余っているのになぜかキックを選択して、チャンスを広げられずに終わることが多かった。戦績が低迷しているのもうなづける不可解な戦略だった。
 フラッドのプレーには、シプリアニの SO デビュー時(正確には二試合目)のようなスリルは感じられず、可もなく不可もなくといったところ。年齢などの条件を度外視しての話だが、A・グッドの方がむしろよかったのでは?と個人的には思う。とにかく、チーム全体として特に際立ったところがなく、中途半端な印象をもった。まあそれだけペルピニャンの調子が良かったということでもあるのだろうけれど。

 ちなみに、スタンドではジョー・マゾとベルナール・ラポルトが並んで観戦していた(かつてのいわば「冬の風物詩」である)。ラポルトは後半からテレビ解説に加わったが相変わらずの早口だった。

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