« モンペリエ 対 トゥーロン(チャレンジカップ) | トップページ | 「蓮實重彦が偏愛する……」 »

2008年12月 7日 (日)

ハイネケン・カップ プール第三週

 確か 2007 年 W 杯の頃に「カムアウト」したウェールズ出身のレフリー、ナイジェル・オーウェンズ氏が先頃自伝『ハーフタイム』を出版したそうで、インタビュー記事を BBC のサイトで読むことができる(Nigel Owens, Lynn Davies, Hanner Amser: Hunangofiant Nigel Owens, Talybont: Y Lolfa, 2008)。本自体はどうやらウェールズ語で書かれているらしいので、全く読めないけれども、インタビューによれば、自身のセクシュアリティに思い悩んだ末に自殺を試みたことさえあったとのこと。彼が迫害を受けたりせず、キャリアを続けてゆくことができたのはとてもよかった。
 「カムアウト」という行為自体は今も昔も決して容易ではないが、社会的に受け入れられやすくなったのは確かだとオーウェンズ氏はいっている。ラグビーをめぐる言説はホモソーシャルなものがあるとしても、ラグビー自体は寛容なのだといえるかもしれない。また、これが仮にサッカー界であれば、ピッチに立って仕事を全うしてゆくのは困難かもしれなかったと推測されている。アンチ・サッカーではない(サッカーを観るのは好きだから)けれども、ラグビー・ワールドは、「コミュニティ」としてはサッカーのそれとは違うのだと。

             *

 週末にフランス 2 でハイネケンカップの二試合を観戦する。今日はプール 4 「スタッド・フランセ・パリ 対 ハリクィンズ」、明日はプール 1 の「クレルモン 対 マンスター」(前回の覇者、登場)。

 大会新という七万超の観客が動員されたスタッド・ド・フランスでのゲームは、双方が攻め合う(これはクラブ同士の試合だからある意味当然ともいえるけれど)、派手で、楽しいマッチとなった。
 試合前の出し物(何といえばよいのかな、仏語だと fête になる)、鷲に黄金色の楕円球を運ばせたり(これは動物虐待には当らないのか?)、その金球が最終的に「ブランシュ・ド・カスティーユ」に手渡されたり、「レ・ポンポン・ガールズ」が踊ったり、といったアトラクションは個人的には必要を感じないなあ。観客としては、そわそわしつつ席に腰を下ろし、上の空で連れと言葉を交わしたり、キョロキョロしたりしていると、前触れもなく静かに三十人のプレーヤーがフィールドに姿を現し、各自がサッとしかるべき位置を目指して散ってゆくのに気が付いて、大急ぎで心の準備をするものの、間に合わずに半ば取り乱し気味にレフリーの笛の音を聞きつつ、それでも何とか拍手は送る――というような始まり方が理想です。もちろんこれは、日本での「社会人ラグビー」観戦という個人的経験に大きく影響された嗜好に由来するだろう夢想にすぎず、世界的に通用するようなロジックを打ち出そうということではない。実は昨年から、米 NFL の優勝決定戦、いわゆる「スーパーボール」が、途中のコンサートも含めたパッケージとして国営フランス・テレヴィジョン(
フランス 2)で生中継されるようになったので、こうしたアトラクション導入の傾向が弱まることはないだろうと、やや気が滅入りもするのだが、何にしろ短時間で済んだのはよかった。どうでもよいがブランシュ・ド・カスティーユ役の女性は本当に綺麗だった。綺麗だった。

 スタッド・フランセ(だから今日は例の第三ジャージ)はベストのフィフティーンがなかなか揃わず、いつもメンバー編成に苦労するのだが、今日は、FB の本職がいないバックスリーのディフェンスの未熟さを突かれてしまった(ハリクィンズ二本目のトライ)。相手ボール・スクラムのショートサイド、つまりウィング一人で守っているエリアをゴロキックで攻められ、SO エルナンデスがカバーしてボールを一旦は確保したものの、WTB のジュリアン・ソバードとのパスの呼吸が合わず、こぼれてしまったボールを拾われ、一気にゴールラインを陥れられる――時折、どのレベルのマッチでも目にする光景ではあり、そういう「盲点」をうまくついたハリクィンズ SH ケアの殊勲だったと言ってもよいのだが。

 攻撃の方では、エルナンデスではチームに勢いが出ないのを見て、12番のリーベンベルクを SO に、「マゴ」を FB に下げる布陣に変えたのが奏効し、後半はボールをよく動かして果敢に攻めたけれども、大事なところで各種ハンドリングエラーが出て、最終的にはトライがひとつのみという結果に終わった。ラックでの反則が後半 10 分頃までゼロという素晴らしいゲームだっただけに、尚のこと惜しまれる敗戦だった。
 ブライアン・リーベンベルクは、次のプレーを読ませない独特の間合いとフォームをもった選手だということに初めて気づいた。代表でのプレーは正直いってあまり印象に残っていないけれど、その後も成長しているのには素直に感心した(というか、SF ではドミニシと並んでバックスの大黒柱でしたね)。
 バックスでは、ホープとして期待されている CTB のマチウ・バスタローを初めて見た。非常にパワフル(V・クレールと同等かな)。そのうちフル代表にも選出されるのだろう。

 今日はシルヴァン・マルコネがフィールドで動いているのを久しぶりに見ることが出来た。それにしても、スコットランド、イタリア、アルゼンチンそれぞれの代表チームのエイトが名を連ねるFW というのは、何とも豪勢な陣容で、サイモン・テイラーが 5 番に入っても、スクラムはやや優勢を保つことができていたし、これで勝てないのは何故だろうという気がしないでもない。スザルゼウスキー(やり過ぎで痛い反則をとられることも少なくないとはいえ、常に全力で好感のもてるプレーヤー)もいるというのに。適当なことを言い放ってしまうと、パリッセ(今日は 6 番に入った)は確かに好い選手なのだが、今以上にディフェンスに力を割いた方がよいのではないか? 彼はボールをもって走ったりパスしたりすることもできるし、これまでもそうやって得点に絡んできたのは事実だが、ランナーとしてはさらに上を行くレギザモンに攻撃は任せて、主将としてはもっとディフェンスをケアした方が、全体的に上手く行くような気がする。
 ホアン・レギザモン。プーマスのメンバーとしては、いわばパリッセ・タイプのロンゴの穴を埋め切れていないと思うが(彼が一人でそっくり埋めなければいけないというわけでもない)、あの体格であのスピード、そしてステップ、すごいですねええ。2007 年 W 杯三位決勝戦では交代で出てきて、フランスの戦意を喪失させる豪快なランを少なくとも二回披露した。その時にも、そして一対一となった FB をあっさり交わした今日のトライを見た時にも改めて思ったけれど、斉藤祐也はこういうエイトになりたかったのだろうなあ(秩父宮のカナダ戦ではそういうプレーがあったけどね)。

 クィンズのニック・エヴァンスはこのマッチは可もなく不可もなくといったところ。今日はとにかく SH のダニー・ケアがチームを文字通り牽引した(プロフェッショナル・ファウルでシンビンに送られても MoM という活躍ぶり)。この人がイングランドの SH でもよさそうに思うのだが、もうベテランなのかと思ったら逆で、まだ若い人だった。

 プレースキックのたびに、場内の大型ビジョンが「二人のキッカーのためにお静かに願います」というメッセージを表示するのだが、効果はほとんどなかった。敵側キッカーの集中力を殺ぐということではなく、「二人」という言い方が示唆するように、要するにフランスの人々は誰が蹴るのであれ、賑やかなのが好きということなのだ。これはそういう性分なので、どうにもならないだろう。

             *

 負けるとノックアウト・ステージ進出可能性がほぼ消えてしまうクレルモン・オベルニュ(試合前 3 位)が、死に物狂いのゲームで前回覇者マンスター(同 2 位)を破った。今回はホーム・アドバンテージもやはりあったと思うけれど、とにかく次の対戦が鍵である。

 マンスターはプレーのひとつひとつが正確で迷いがなく、喩えていうならよく鍛えられた軍隊を見ているようである。実際に戦争を見た経験はないけれど、機を見てサッと展開するあり方は戦慄的ですらある。R・オガーラのキックは相変わらず好調だし、FW は強く、統率が取れていて、隙があまり感じられない。クレルモンの勝因はまず、当り負けしなかった点だろう。ボールを確保したらとにかく前に出るという(えらく大雑把な言い方ですみません…)チームが、そこで負けてしまっては、マッチを勝ち取ることなどとうていおぼつかない。だから、どちらのチームも(ハーフ団を除いて)攻めては思い切りぶちかまし、守っても思いっきりぶちかますことになる。クレルモンの13番バビだって、あまり技巧は凝らさずに真直ぐ突っ込んでいた。テレビで見ていて「これは凄い」と率直に思ってしまった。要するに、とても豪快な、だが必ずしも大味というわけではなく、勝敗の行方も最後までわからぬという非常に面白い試合だった。

 それにしてもマンスターの攻撃はいつも素早く無駄が無い。ボールが高速で展開される彼らのアタックはやはり見ものである。たとえばオールブラックスと対戦したらどうなるのだろう?と素朴な疑問が湧く。というか、先日対戦していちおうオールブラックスが勝ったんですよね。ともかく、クレルモン側は一次防御では完全には対応しきれていなかったのだが(たとえば 12 番のマフィには再三のラインブレークを許した)、カバーディフェンスが今日は素晴らしく、最終的には 22m ラインの内側への侵入はあまり許さずに終わった。またタックルの力強さには、何か技巧を超えた力が感じられた。
 と同時に、勝利のために PG で着実に点を積み重ねて、トライで逆転。理想の展開といっていいだろう。残り 6 分で 6 点差だが、マンスターにトライを取れる気配はもはやなかった(惜しまれるのはペナルティを与えて 9 点差を保てなかった点である)。

 いずれのチームにも悪質な反則はなかったし、今シーズンのベスト・マッチのひとつとなるのではないだろうか。感動的なゲームだった。わたくしはフランスのクラブだったら今のところクレルモンが一番好きかな(トゥールーズなど見ていないチームが多数あるので、暫定的なものだが)。

〔「ホモソーシャル」ということについて誤解を防ぐために一言。
 委細はイヴ・K・セジウィック『男同士の絆』(名古屋大学出版会、2001 年)を御参照いただきたいのですが、思いっきり簡単にいってしまうと、ミゾジニーとホモフォビアの二点によって特徴づけられるような社会的関係のひとつの歴史的な形ということになります。
たとえば三田誠広『そして笛が鳴り、ぼくらの青春は終わる』の主人公・ライターの女性・写真家の男性という「三角関係」は、セジウィックがイギリス文学に指摘したような「ホモソーシャル」なあり方、とりわけホモフォビアに裏打ちされるようになる 19 世紀型ホモソーシャルの関係と全く同一のものです(チームのセンター・コンビの「関係」も考慮しつつ)。
 それがこの小説の限界ということになるでしょうけれど、でもラグビーのゲームを描いた部分は面白いんですよね。だから、20 世紀に 19 世紀小説を反復するというその時代錯誤を大仰に批判したりはせず(それ自体は造作ないことです)、いつの日か書かれるであろう――本当に?――真の 21 世紀的ラグビー小説にその最良の部分が受け継がれるよう願うことにしたいと思います。〕

|

« モンペリエ 対 トゥーロン(チャレンジカップ) | トップページ | 「蓮實重彦が偏愛する……」 »

ラグビー」カテゴリの記事

ラグビー 6Ns ほか」カテゴリの記事

トラックバック


この記事へのトラックバック一覧です: ハイネケン・カップ プール第三週:

« モンペリエ 対 トゥーロン(チャレンジカップ) | トップページ | 「蓮實重彦が偏愛する……」 »