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2009年3月 2日 (月)

シックスネーションズ FRA-WAL / IRE-ENG

(ADSL 接続ができない状態がずっと続いており、ある意味で不如意なことこの上ないけれども、一方ではせいせいするというか……)

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フランス 対 ウェールズ  21-16(トライ数 2-1)

 キックオフ後すぐのフランス側の攻撃、素早く出されたボールに勢いよく走りこんでは真直ぐ次々とぶちかましてゆくレ・ブルーを見て、その迫力に痺れつつ(こういうときに敵も味方もない)、これは凄い試合になりそうだと感じた。事実、ウェールズにとっては対イングランド戦以上の「肉体と肉体のぶつかり合い」となったわけだが、そこで優位を得ることができなかったばかりか、レッドドラゴンは展開の速度においても相手を上回ることがほとんどできずに終わった。二年目となる新体制フランスのここまでで最高のゲームといってよいのだろう。少なくとも選手やスタッフ(それにフランスのプレス)は会心の勝利と考えて、喜びを隠そうとしなかった。On dirait que les Bleus ont battu les Blacks. まるでオールブラックスに勝ったかのような喜びようには、やや困惑したけれども、まあそれはよい。本人たちの望んだやり方で勝ったのだとすればそれはとりあえず祝福するのが筋というものだろうから。最高の出来のレ・ブルーはトライネーションズに勝つことさえ可能なわけで、だからウェールズが霞んでしまうのは仕方なかった。

 もっとも、この日のゲームが、就任時にリエヴルモンの語った「見て面白いラグビーをして勝つ」(言葉通りではないが要するに rugby spectaculaire et qui gagne)というイメージを具現化したものだったかどうか、それはわからない。トライそれ自体に特筆すべきところはなかったと思う。完全に崩されてしまったウェールズ・ディフェンスの混乱に乗じた形のエマンスのトライ(後半)はともかくとして、前半の一本目は(そして幻の二本目も)それ自体としては、ただ力に任せて強引に奪ったものにすぎず、したがっていずれも、ウェールズのトライの戦慄的なまでの美しさ――残り二節でこれ以上に美しくセクシーなトライが生まれるとは考えにくい――に比肩しうるものではなかった。フィジカル面での優位を象徴するといえばよいか、つまりはフランスがかなり現実的な戦い方をしたということなのだが、それでもやはり感銘を与えられたのは確かである。

 まず誰もが感じたであろうように、ディフェンスが素晴らしかった。
 ウェールズ(や南アフリカ)の株を奪うような極端なブリッツ・ディフェンス、こういう局面では機動力ある第三列が活きるけれど、ラインがあまり揃わず、ひとりだけ飛び出た形になるのがいかにもフランス的だった。これは国民性云々というばかりではなく、フランスのクラブチームではあまり実践されていないこの defense inversee は、『ミディ・オランピック』紙の報ずるところでは、試合前にたった一度全員で動きを合わせたのみで実践されたという、きわめて実験的な、そういってよければバビの SO 起用以上の賭けというに近い試みだった。そうした不慣れな動きが産み出したギャップ(左右というより前後方向でのギャップ)をウェールズに上手く突かれてトライを奪われたわけだが、80 分通しての結果としては、まずまずの成功だったといえるのではないだろうか。
 そして Th・デュソトワールや M・バスタローを始めとする個々のタックルの力強さ、タックルを外されかけても何とかしがみつく気迫、地上でのボール争奪戦での激しさ。もちろん、ただがむしゃらにということではなく、ウェールズの攻防の要となるプレーヤー、すなわち M・ウィリアムズ、S・ウィリアムズ、L・バーン、M・フィリップスらを封ずべく採られた戦法と解すべきだろう。事実、今日は両 WTB も G・ジェンキンスも A・ポウエル(パウエルのことです)も目立たなかったし、ラックでの反則すれすれの絡みによってボールを奪ったり、相手の反則を誘うことに長けた M・ウィリアムズさえ、フランス側の忍耐強さのために、逆に反則をとられるなど、思うように動くことができずに終わるほかなかった。フィリップスの個人プレーや、バーンのキック、あるいはポウエルの突進も同じことで、「ピンチはチャンスの母」(?)という格言どおり、他チームに対してこれまで威力を発揮してきたそれらプレーを、フランスは自分の好機へと巧みに転じるべくゲーム・マネージメントを行なったわけである。

 バックスの攻撃についていうなら、外に展開する前にまず力勝負を挑んで縦に突進したのが効果的だった。あるいはより正確には、外への展開をちらつかせながら、実は内で(つまりだからフィジカルで)勝負したというべきかもしれない。実際、WTB のゾーンでブレークするという場面はなかったように思うが、結果的に、攻撃が単調になるのを防ぐ効果は確実にあった。悪いときのフランスがそうであるように、ただ横に流れるだけではディフェンス・ラインを突破することは難しいのだから、こうした工夫――「縦縦横」(?)――は大切なのだが、今日のウェールズは、トライにつながったシャンクリンの突進など、いくつかの場面を除いては、ブリッツ・ディフェンスの圧力に負けてただ横にパスするだけに終わった。さすがにフランスがここまでラッシュしてくるとは思わなかったのか? 地味に試してきたはずの「オフロード」パスも活用されずに終わったのはどうしたことだろう?

 バスタローは以前、秋頃だったか、初めて見て即代表レベルと感じたのだが、今日の活躍からして、フリッツと CTB の位置を争うことになるのではないだろうか。
 バビは、負傷で早退してしまったものの、それまでは問題なく SO をこなした。パントなどのキックのコントロールは思いの外正確だった。しかし、このゲームだけで考えれば、HB を誰が務めようと、またどういう組合せであっても(最低限の技倆が備わってさえいれば)大した問題ではなかったということになりそうではある。ちなみに、週末のトップ 14、モントバンを迎えたトゥルーズでは 9 番ミシャラク、10 番エリサルドという組合せだった(スクレラは 12 番、エリッサルド退場後、キッカーを務めた)。
 バックスリーのアタックも興味深かった。今日の三人(エマンス、メダール、マルジュー)はタックルをかいくぐって巧みに走り抜けることができるランナーだが、同時にメダールは、対面 FB バーンの動きを見越してその逆を突くキックでも大いに貢献した。

 対するウェールズは、完全な力負けということに加えて、フランスの講じてきた対策を上回る、ないしその裏をかくような戦い方ができず、よいところはほとんどなかった。ラインアウトは終了間際の一本を除いて完璧だったというのに。イエローカードを貰ってもおかしくなかったプレーがあったことを記しておこう(シャンクリンによる危険なタックル)。

 とりわけ FW のフィジカル勝負で後手に回ってしまったこと、したがってラックからの球出しも思うようにいかなかったことが、これまでの「FW 強化路線」にどのように影響するか、興味を引かれるところである。昨年と比べトライ数が激減しているし、何より、こうすれば抑えられるというところが少なくとも部分的には明らかとなってしまったわけだから。当面は、フランスと同等かそれ以上に FW 戦に自信をもつアイルランド戦での対応が注目される。メンバーの変更もありうるだろう。
 ゲーム中に戦略を修正するというのは、ウェールズに限らず難しいものだろうが(監督ギャットランドはつねづね「チームを完成させるにはあと数年必要」といっている)、たとえば研究されていたと思われる FB のキックをこれまでと同様に多用したのはやはりよくなかった。秋のワラビーズ戦でもそう感じたが、とりわけカウンターアタックにすぐれるフランスにボールを渡すのは避けるべきだった。まあ、ラックでのボール獲得に苦しむ今日のような試合では、往々にしてキックに頼りたくなるものではあるけれど。
 などなど、今日は確かにパッとしなかったし、グランドスラムが不可能となったばかりか、優勝やトリプルクラウンさえ危うくなってきた。しかし、たとえば前半はパスプレーによるブレークも少なからずあったし、立て直しは十分可能と思う。何より、今大会随一の美しさを誇る――と断定してしまいます――トライは実に素晴らしかった。シャンクリンがタックラーを引きずりながらラインの裏に出て形成されたラックから、ボールがすぐさま左に展開され、ジョジオンとマルジュー(?)の間に出来た、そう広くはないギャップを、S・ジョーンズのパスとバーンのランの「ここしかない」という組合せによって突破したトライ。あの場面を思い返すにつけ、ラグビーに愛されているのはウェールズとフランスのいずれかという疑問がまたしても湧いてくるのである(苦しい負け惜しみとの批判は甘受します)。

 ちょっとバタバタしていて『レキップ』紙を買うことができなかったので(日刊紙ゆゑキオスクでは当日のみ入手可能)、『ミディ・オランピック』を購入する。付録つきで 3 ユーロ。一面の見出しは「反乱の内幕」(Les dessous d'une revolte)。専門紙らしく、細かなスタッツが掲載されているけれど、面倒なので割愛したい――ところだが、少しだけ御紹介しておくと、タックル成功率はそれでもウェールズが上回っている(仏 92 %=7/88 に対しウェ 94.7 %=6/114)、ボール獲得率で劣ったウェールズの大外への展開の機会が 8 に対し、フランスが 1 だそうです。

          *

アイルランド 対 イングランド 14-13(トライ数 1-1)

 最後の 20 分は見られなかったので、感想は少しにとどめる。
 アイルランドが勝ったこと、したがってグランドスラム&トリプルクラウン達成というプレッシャーが(おそらくは)最終戦にかかるだろうこと、これはウェールズにとってはよかったのか、悪かったのか。アイルランドの調子は上がったり下がったりという印象を受けるけれども、まあでも、スコットランド戦の勝敗の行方はまだわからない。

 イングランドはディフェンスやラックでは何はともあれ健闘した。ROG のプレースキックの「絶不調」にも助けられ、点差がさほど拡がらなかったことは集中力の持続に大いに寄与したと思う。反則は確かに依然多いのだが、必殺技「BOD スペシャル」もなぜか止めていたし、何とかギリギリのところで踏みとどまっているという感じだろうか。
 しかしそれにしても、ウェールズやフランスのきびきびしたゲームのあとでは、ボール回しを含むプレーのテンポがかなり遅く見えてしまうし、相手陣 22m ライン内に 37 分頃まで入れなかったということは(その機会に 3 点奪ったとはいえ)、やはり何かが上手く行っていないのである。アイルランドもそれに付き合ってしまったのだろうか。とにかく、イングランドは、比較的相性のよいフランスに勝ってくれたりなんかすると、ウェールズ・ファンとしては嬉しいかもしれない。

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