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2011年6月

2011年6月17日 (金)

『ハングルの誕生 音から文字を作る』

 野間秀樹『ハングルの誕生 音から文字を作る』平凡社新書、2010年

(引用)

 このように単音文字〔アルファベット〕を見ると、文字の平面では、子音字母は鞏固な〈かたち〉を有してい[105]るのに、母音は〈かたち〉が朧である。謂わば、母音は子音と子音の間の空洞を吹き抜ける風である。母音は音の平面で生起するのである。西方からやって来た単音文字〔アルファベット〕とは、ゲシュタルト〈かたち〉を構造的に配する人が〈読む〉という営みの中で、子音間の洞穴を母音という風が吹き抜け、〈言語音〉が生起する仕組みである。
 こうして私たちは、東方への〈アルファベット・ロード〉とはその根幹によいては〈子音字母ロード〉だったことを知る。アジアを渡りきった〈子音字母ロード〉の終着地で、朧なる母音に、断固としてゲシュタルト〈かたち〉を与えたのが、〈訓民正音〉であった。

 中原に発した漢字のシステムと、地中海に発したアルファベットのシステムを見た。私たちが創ろうとする、朝鮮語を描き出す文字は、〈象形〉を基礎とする〈六書〉のシステムを採らず、〈音〉から出発することになる。単音文字のシステムを採るのである。
 しかしここで重要なことは、次の点である。〈正音〉はアルファベットのシステムを知ってはいたが、単純に受け継ぐことは、しなかった。と言うよりは、一切の曖昧さを拒否するという点で、原理的には拒絶に近い。子音文字の道は既に歩き終えている。〈正音〉は、西方からやって来たアルファベット・システムの、一千年以上も朧であった母音の空隙を、母音字母という鮮明なゲシュタルトで満たすのである。そしてその母音のゲシュタルトの位置づけは、ラ[106]
テン文字などとは根底から異なっていた。〈正音〉は、ラテン文字のような、母音字母と子音字母が単に線状に並列される二次元的な配列システムではない。次章で見るように、全く新たな立体的配置のシステムを確立するのである。西方に発する子音文字〔アルファベット〕は極東における〈訓民正音〉の誕生をもって、史上空前の全面的単音文字〔フル・アルファベット〕システムとして完成する。

 [108]いよいよ、文字を創ることになる。総戦略は既に定まっている。〈音〉から出発すること。漢字のように対象を〈象形〉して形を与えるのではなく、〈音〉に形を与えること。そしてその〈音〉とは、流れて消えゆく言語音を、単位に区切り、各々の単位に形を与える〈単音文字〉とすること。子音と母音を取りだし、〈子音字母〉のみならず〈母音字母〉にもゲシュタルト(かたち)を与えること。

 訓民正音はこれほどまでに凄いんだと殊更に強調するような口吻には――実際すごい文字ではあるにせよ――いささか辟易させられるが、いろいろ教えられることが多い。読んでいて中沢新一『イコノソフィア 聖画十講』の漢字・ひらがなに関する章を思い出した。

 ラテン文字やアラビア文字がそうであったように母音を「空隙」として、風穴として曖昧なままにしておくことと、朝鮮語のようにそれに形をきちんと与えること。ハングル(文字)に対する個人的な違和感(ごく小さなものにすぎない)の因って来たるところがわかった(未了)

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