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2009年6月13日 (土)

アルゼンチン 対 イングランド(於サルタ)

 二月末から隣に住むようになった大々々迷惑な移民一家のお陰でわたくしのいろいろな計画が大幅に狂ってしまった。わたくしの怒り(もちろん!わたくしは怒っている)は、パリ市と移民支援団体が絡んだ住居斡旋事業に善意から(と思いたい)協力したはよいが、契約書を碌に読まず署名してしまった大家と、この一家に向けられている。詳細は省くけれど、とりあえずもっと小声で穏やかに喋れ。うちのテレビや音楽が聞こえなくなるって、どれだけの dB を誇るつもりだ? 声の大きさによってこそ己の権力が保全されるとでもいわんばかりの「怒鳴り声」を聞かされるたび、気が狂いそうになる。それからステレオやテレビの音量をもっと下げろ。(サニー・アデとか、ユッスー・ンドゥールとかだったら兎も角)アフリカ音頭みたいなセンスの悪い音楽を――しかも低音を強調して――一日中かけるのはよせ。餓鬼たちがわたくしのことを chinois と呼ぶのはレイシズム以外の何ものでもないがそれは見逃してやるから、とにかく静かな生活を返せ。ここは大草原やカリブ海の離れ小島の一軒家ではない。同じ建物にもともと住んでいた人間の暮らしに、少しは自分を合わせるべく努力せよ。電話はハンズフリーではなくちゃんと受話器を使え。

 生活が一変してブロッグどころではなくなっていたのだが、日夜抗議を続けた甲斐もあり多少はおとなしくなってきたようにも思える。錯覚かもしれないがそれはまあよい。とにかく夏のテストマッチ・シーズンとなり、久しぶりにラグビーを観戦する。アルゼンチン対イングランド。Direct 8 で。フランスのテレビで放送されるとは思わなかったので第一テスト(於マンチェスター)は見逃してしまったが、もしかしてロス・プーマスにはガルチエが関わっているからだろうか。どうせなら NZ 対フランスも観たかった。

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 アルゼンチン対イングランド 24-22 (トライ数 2-1)

 快晴のサルタ、Padre Ernesto Martearena スタジアム(読めないから原綴のまま記すのぢゃ)。フィールドが金網で囲まれている点、お国柄を偲ばせるけれども、ゴールに昂奮した客が金網を押し倒してピッチになだれ込むなんてことは、もちろん、ない。
 開始直後にホームチームがトライを奪い、さらに PG 三本でスコアを 14-3 としたのが 24 分。その後、前半の残り 20 分くらいは、アウェイチームは自陣に押しとどめられ、相手陣に入ることができたのはわずかに二回だった。さらに、後半 2 分のトライによって 21-3 と点差が拡がった時点でアルゼンチンの勝ちをわたくしは予想したが、イングランドがようやくそこから反撃を開始し、点数的にはもつれるマッチとなった。最終的に勝利を決めたのは、後半 30 分の J・M・エルナンデスの DG で、だからイングランドはウィルキンソンなら勝っていた、あるいはアルゼンチンはエルナンデスがいたから勝てたといえるかもしれない。

 イングランドにはいろいろな意味で注目してはいるが、勝って欲しいとはべつだん思わない。アルゼンチンやウェールズ、それにアイランダーズとの対戦ではわたくしは相手方を応援するし、フランスや南アフリカと対戦する際に、せいぜいいって中立になるくらいのものである。
 今日のイングランドは、ライオンズに FW の重要なプレーヤーを何人か取られているにもかかわらず、スクラムとラインアウトで優勢、ブレークダウンもほぼ互角の出来だった。これでなぜゲームを優位に進められないかといえば、やはり反則が多いから。痛い反則は FW だけでなく BK にもあった。反則によって点を与え、また自身の攻撃では、プレーの連続によってラグビー的運動を作り出すことができず、というわけで、これで勝ったって誰も喜ばないだろう。よいプレーもあった。散発的にだが、SH のケアから SO のグッド他のバックスに展開してあわやという場面が後半は何回か見られはしたのだが、ハンドリングエラーがあったり、プーマスのディフェンスの戻りが速かったりして、やはり続かない。グッドはもっとボールを持って走ったりした方がよいように思う。

 アルゼンチンは、W 杯以降の新チームを初めて見たのだが、FW で六人、BK で二人、あのチームから残っている。
 ラインアウトがかなり悪かった(HO は M・レデスマなのに)のは得点に関して大きかったと思うが、それにも増して、ブレークダウンで人数をかけなければ勝てなくなっているのが興味深かった。この試合に限っていうなら、最低限のボールを何とか確保できたということになるだろう。被ターンオーバーも少なくなかった。イングランドももちろん弱いわけではないのだから決して不可思議なことではないけれども、南アフリカやニュージーランド相手なら相当苦戦するのではないだろうか。時間を潰すための自軍ボールの確保さえ今日はうまく行かなかった。
 バックスの方は、F・コンテポミまで引退してしまったようだが、だいたいは英仏の一流クラブ所属のプレーヤーだから当然ともいえるだろうけれど、身体の使い方がイングランドのバックスよりずっとしなやかで、展開プレーの滑らかさや技術という点でもイングランドよりよほど上だったと思う。実際、ブレークダウンが劣勢で、ハイパントも数本しか試みられなかった今日のゲームでは、アルゼンチンの勝利はバックスのパスプレーにかかっていたのだが、ハンドリングエラーは前半 35 分までたぶん一度もなかった。
 後半2分のトライは素晴らしかった。目の覚めるようなというのはこういうプレーのことを指していうのだろうと思う。ラインアウトからすぐラックとなり、SH からエルナンデスに左展開、デコイ役の CTB(おそらく 12 番のフェルナンデス)が、エルナンデスの対面のグッドを引きつけて「殺し」、真後ろから走り込んでパスを受けた FB アグラ(読み方はこれでよいのか?)がグッドと CTB ヒプキスの間を突破する。真っ直ぐ走ったあと、戻ってきた英 11 番をハンドオフで倒しつつ左に進路を変え、英 15 番アーミテージにタックルさせながら、大外の WTB に飛ばしパス。テレビのフレーム外から突然現れ出た 11 番カマチョがそのままライン際を走りきって対面のクエトを振り切り、タッチダウン。法政みたい、というと語弊があるかもしれないので、ほとんどウェールズかアイルランドのようだったといっておこう。

 ラインブレークを果敢に狙うというアルゼンチンの姿勢をわたくしは支持する。汚いプレーが非常に少なかったのも好ましかった(イングランドの D・アーミテージがチンピラに見えて仕方なかった)。テストマッチの機会に恵まれないチームの宿命として、組織プレーのこれ以上高度な習熟は望めそうもないけれど、何とか上位チームと伍していって欲しいと思う。

Argentina: H Agulla (Brive); F Leonelli (Saracens), G Tiesi (Harlequins), S Fernandez (Hindu), G Camacho (Buenos Aires CRC); JM Hernandez (Stade Francais), A Lalanne (London Irish); R Roncero (Stade Francais), M Ledesma (ASM Clermont Auvergne), M Ayerza (Leicester Tigers), R Alvarez (Perpignan), P Albacete (Stade Toulousain), G Fessia (Cordoba Athletic), JM Leguizamon (Stade Francais), JM Fernandez Lobbe(Sale Sharks - capt).

 Replacements: A Vernet Basualdo (Stade Toulousain), JP Orlandi (Rovigo), M Carizza (Biarritz Olympique), E Lozada (Toulon), N Vergallo (Dax), M Avramovic (Montauban), L Gonzalez Amorosino (Pucara).

England: D Armitage (London Irish); M Cueto (Sale Sharks), D Hipkiss (Leicester), T May (Newcastle), M Banahan (Bath); A Goode (Brive), D Care (Harlequins); T Payne (Wasps), D Hartley (Northampton), J White (Leicester), S Borthwick (Saracens, capt), L Deacon (Leicester), C Robshaw (Harlequins), S Armitage (London Irish), N Easter (Harlequins).

 Replacements: G Chuter (Leicester), D Wilson (Newcastle), B Kay (Leicester), J Haskell (Wasps), P Hodgson (London Irish), S Vesty (Leicester), M Tait (Sale Sharks).

 (フランス・トップ 14 決勝は録画したけどまだ見ていない)。

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2009年3月22日 (日)

シックスネーションズ WAL-IRE

ウェールズ 対 アイルランド 15-17(トライ数 0-2)

 アイルランドが久方ぶりの優勝をグランドスラムで飾った点は素直に祝福したいし(おめでとう!)、勝敗の行方が正真正銘のラスト・プレーまでわからないという点では非常にスリリングだった。
 また、うまい具合に最終戦が決勝戦となるものだなあと感心しもしたけれど、ラグビー・ゲームとして取り立てていうほどの試合ではないとも感じられた。Too little of rugby and too much of "pick & go" という印象。
 結局のところ一番強かったということになるのだろうが、この試合ではアイルランドはラック周辺での反則が多すぎはしなかったか。BBC のスタッツによるなら、ウェールズの反則数 5 に対し、アイルランドは 15 となっている。そのうち四つ(つまりアイルランド陣での反則のほとんど)を PG として計 12 点を奪いはしたものの、それ以上に利用することのできなかった相手のある意味での要領の悪さ、要するに作戦勝ち――といってしまえば簡単だが、プレーを遅らせ too little rugby を演出する要因だったのだから、決してほめられたものではあるまい。BK によるライン・アタックがあまり有効ではなく、ピック&ゴーに活路を見出すほかなかった以上、戦術としては当然というべき選択肢ではあるけれど、こう反則が多くては、新ルール試行の意図は見事に裏切られてしまっているといわざるをえない。さらにレフリー W・バーンズ氏による見逃しも少なくなかった。後半 35 分のスティーヴン・ジョーンズのダイレクト・タッチという「ミス」(蹴った地点に戻されて相手ボールのラインアウト)、あれはまさに新ルールの賜物なわけで、ある種の不公平感が残ってしまう。
 もっとも、ウェールズ側にも、きわめて悪質な反則(ライアン・ジョーンズによる足掛け)がイエローにならずに済むという幸運があった。

 ともかくアイルランド、とりわけ FW はやはり最後まで強く、そしてうまかった。今夏のライオンズ主将は 4 番 POC で決まりと(そしてフッカー及び二列・三列はアイルランドで固めたってよかろうと)思った人も多いのではないか。
 彼らは突進して相手に当たるとき、必ずといってよいほど、クルっとターンして相手のタックルをうまく外すようにしていたのが興味深かった。事実、ウェールズにしてはタックルのミスが多かった(86 回中 11)。BK では FB カーニーが、どの試合だったか、連続で何回転もしていて、彼の何だかせわしない走り方と相俟ってある種のおかしみを醸しだしていたけれど、ともかくよく鍛えられているのだとは思う。

 ウェールズ側で気づいたこと。
 ・ラッシュしてくるディフェンスへの対応の不備。結局イングランド戦で露呈してしまった弱点をフランスやアイルランドに見事に利用されてしまったということになるだろう。ラインの後へのショート・パントなどもほとんどなかった。
 ・キックオフのボールをほとんど取れていない。
 ・FW 戦へのこだわり。強化に努めてきただけあって、イングランド戦やフランス戦、そしてこのアイルランド戦でも、本当によくやったとは思う。アイルランドという、強くて上手くて狡猾な相手に少なからずターンオーバーしているのだから十分やっているといわなければならない。しかしやはり、パスプレーをもっと多用し、積極的にラインブレークを狙うべきだったのではないだろうか。
 ・ラインアウトの失敗(22 本中 6 本奪われた)。フランス戦のように上手く行っても勝てないのに、こんなひどい状態で勝てるはずがない。
 ・シェーン・ウィリアムズがほとんど目立たなかった。「高速リベロ」とフランス 2 のアナが戯れに命名してはいたものの、その名にふさわしい動きは結局初戦のスコットランド戦のみ、残りの試合では、ウィングとしてさえほとんど活躍らしい活躍もできず終わってしまった。どこにでも顔を出す彼の機動力が、ウェールズの攻撃の予測のつかなさに如何に貢献していたかを改めて物語ることとなった。(何だか吉田義人の晩年と似ている?)
 ・FW(とりわけ R・ジョーンズ)がポイント作りのために突っ込んでいくも、孤立してボールを奪われるという場面が少なからずあった。R・ジョーンズは、ラックに敢えてせずに立って前進しながらサポートを待つというプレーも見られたと記憶するが、それを続けるべきだったと思う。
 ・マイケル・フィリップスが突破したときのサポートが足りない。これはいつもそうなのだが、味方をも欺くようなフレア、というか味方にさえ予測不可能な突然の出来事だからであろうか(今日は二回もあったが)、咄嗟のチャンスを活かせないことが多いように思う。
 ・あと、カムバック!マイケル・オーウェン(これで何回目になるだろうか……)。

 他に、この試合では、前半 30 分でリー・バーンが負傷退場してしまうという不運が大きく響いた。
 ハイボール処理の多くを担当してきた(しかも高い成功率を誇ってきた) FB の退場は、ボール獲得の点で当然不利に働いたし、アイルランド二本目のトライ(ROG のキックパス → ボウのキャッチ)は、FB に回った G・ヘンソンの(WTB ウィリアムズとの連携)ミスが原因となってしまった。中央付近でのスクラムからのプレーだったはずだが、あの段階、あの地点でフルバックが飛び込んでしまっては――しかもタックルを見事に外されたのでは――後を衛る者が誰もいなくなってしまうではないか。
 スリークォーターのディフェンス・リーダーではあるのだが、FB としてはテスト・レベルに達しているかどうか危ういヘンソン、元来はバックスリーである CTB のロバーツ、こうした布陣の弱点を、アイルランドに突かれてしまったわけだが、逆にいうと、ロバーツをシャンクリンと並べて CTB で起用しても何とか(決して万全とはいえないけれど)対応してこれたのも、バーンが後に控えていたからということになるかもしれない。そもそも前に飛び出すディフェンスは、ラインの裏にキックを蹴り込まれる危険とつねに隣り合わせなのだから、備えはそれなりに出来ていたはずなのだ。

 結局、今大会のウェールズはトライをあまりとれずに終わった(5 試合で 8)。原因は多数、またさまざまな水準で指摘しうるだろうが、まあ要するに、耐えに耐える中で得られた数少ないチャンスをものにして勝つという、フランス(W 杯での対ニュージーランド戦のように劣勢が予想される場合)やアイルランド的なあり方は、ウェールズには合っていないのだと思う。得点が PG だけでも勝てば何の問題があるかと、一時期のイングランドのように平然としていられるほど成り切れるわけでもあるまい。パスをひたすら繰り出す中で突破口を見出すという、「セクシー・ラグビー」の教訓――何という教訓でありましょうか――をいま一度思い出す必要がありはしないか。後半 40 分の S・ジョーンズの PG の場面にはもちろん痺れたけれど、他方でノー・トライに終わったという事実はやはり大きい。相手のディフェンスが外へのパスコースを切ってくるならば、こちら側のアタック・ラインを――たとえば法政大学のように(笑)――深くするとか、いろいろあるのではないだろうか。いずれにせよどのような対策が今後とられることになるか興味深い。

 いや、それにしても、最後の五分間のサスペンスといったらありませんでした。S・ジョーンズの DG で勝ったと、てっきり思ってしまいましたよ、わたくしは。スティーヴン劇場という感じでしたねえ……。

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 2005 年の最終戦、同じようにして決勝戦(ただしフランスにも優勝の可能性が残っていた)となったミレニアムでのウェールズ対アイルランド戦を見直してみた。
 一見して気づいたのは、この試合の方が、ボールがよく動いて(そういう意味では)ずっと面白かったということである。ウェールズが勝ったからということではなく、いや本当にそういうことではなくて、ピック&ゴーはアイルランド側にさえほとんどなく、それどころか、アイルランドは、10-15 番を総動員したきわめて複雑な、しかし剃刀のような切れ味のサインプレーを惜しげもなく披露しつつ、果敢にラインブレークを狙っているし、というわけで、新ルールって一体何の意味があるのだろうかと思わずにいられなかった。オコネルとオカラガンが勢いよく走りこんでパスを交換するなんて、今では考えがたいけれども、それがたった四年前のことなのである。まあ、ディフェンスというのは年々進化するというか、厳しくなってゆくものだし、同じようには行かないだろうけれど。
 先発メンバーを見ると、ウェールズ側は 1・3・6・7・9・10・11・12・13 番、アイルランドでは 3・9・10・13・15 番が今も(控えの人も含めて)活躍するプレーヤーである。
 POC は当時 5 番だが、興奮のあまりウェールズ 5 番を組み伏せて、何回も殴る場面があって笑った。このシーンはすっかり忘れていたけど、ただの暴れん坊やん……。
 ちなみにいえば、BOD はこの頃、驚異的な加速力を誇っていたが、ウェールズの CTB コンビがそれでも何とか拮抗していたのが興味深い。防禦時のラインもすでに浅いものだった。

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2009年3月 2日 (月)

シックスネーションズ FRA-WAL / IRE-ENG

(ADSL 接続ができない状態がずっと続いており、ある意味で不如意なことこの上ないけれども、一方ではせいせいするというか……)

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フランス 対 ウェールズ  21-16(トライ数 2-1)

 キックオフ後すぐのフランス側の攻撃、素早く出されたボールに勢いよく走りこんでは真直ぐ次々とぶちかましてゆくレ・ブルーを見て、その迫力に痺れつつ(こういうときに敵も味方もない)、これは凄い試合になりそうだと感じた。事実、ウェールズにとっては対イングランド戦以上の「肉体と肉体のぶつかり合い」となったわけだが、そこで優位を得ることができなかったばかりか、レッドドラゴンは展開の速度においても相手を上回ることがほとんどできずに終わった。二年目となる新体制フランスのここまでで最高のゲームといってよいのだろう。少なくとも選手やスタッフ(それにフランスのプレス)は会心の勝利と考えて、喜びを隠そうとしなかった。On dirait que les Bleus ont battu les Blacks. まるでオールブラックスに勝ったかのような喜びようには、やや困惑したけれども、まあそれはよい。本人たちの望んだやり方で勝ったのだとすればそれはとりあえず祝福するのが筋というものだろうから。最高の出来のレ・ブルーはトライネーションズに勝つことさえ可能なわけで、だからウェールズが霞んでしまうのは仕方なかった。

 もっとも、この日のゲームが、就任時にリエヴルモンの語った「見て面白いラグビーをして勝つ」(言葉通りではないが要するに rugby spectaculaire et qui gagne)というイメージを具現化したものだったかどうか、それはわからない。トライそれ自体に特筆すべきところはなかったと思う。完全に崩されてしまったウェールズ・ディフェンスの混乱に乗じた形のエマンスのトライ(後半)はともかくとして、前半の一本目は(そして幻の二本目も)それ自体としては、ただ力に任せて強引に奪ったものにすぎず、したがっていずれも、ウェールズのトライの戦慄的なまでの美しさ――残り二節でこれ以上に美しくセクシーなトライが生まれるとは考えにくい――に比肩しうるものではなかった。フィジカル面での優位を象徴するといえばよいか、つまりはフランスがかなり現実的な戦い方をしたということなのだが、それでもやはり感銘を与えられたのは確かである。

 まず誰もが感じたであろうように、ディフェンスが素晴らしかった。
 ウェールズ(や南アフリカ)の株を奪うような極端なブリッツ・ディフェンス、こういう局面では機動力ある第三列が活きるけれど、ラインがあまり揃わず、ひとりだけ飛び出た形になるのがいかにもフランス的だった。これは国民性云々というばかりではなく、フランスのクラブチームではあまり実践されていないこの defense inversee は、『ミディ・オランピック』紙の報ずるところでは、試合前にたった一度全員で動きを合わせたのみで実践されたという、きわめて実験的な、そういってよければバビの SO 起用以上の賭けというに近い試みだった。そうした不慣れな動きが産み出したギャップ(左右というより前後方向でのギャップ)をウェールズに上手く突かれてトライを奪われたわけだが、80 分通しての結果としては、まずまずの成功だったといえるのではないだろうか。
 そして Th・デュソトワールや M・バスタローを始めとする個々のタックルの力強さ、タックルを外されかけても何とかしがみつく気迫、地上でのボール争奪戦での激しさ。もちろん、ただがむしゃらにということではなく、ウェールズの攻防の要となるプレーヤー、すなわち M・ウィリアムズ、S・ウィリアムズ、L・バーン、M・フィリップスらを封ずべく採られた戦法と解すべきだろう。事実、今日は両 WTB も G・ジェンキンスも A・ポウエル(パウエルのことです)も目立たなかったし、ラックでの反則すれすれの絡みによってボールを奪ったり、相手の反則を誘うことに長けた M・ウィリアムズさえ、フランス側の忍耐強さのために、逆に反則をとられるなど、思うように動くことができずに終わるほかなかった。フィリップスの個人プレーや、バーンのキック、あるいはポウエルの突進も同じことで、「ピンチはチャンスの母」(?)という格言どおり、他チームに対してこれまで威力を発揮してきたそれらプレーを、フランスは自分の好機へと巧みに転じるべくゲーム・マネージメントを行なったわけである。

 バックスの攻撃についていうなら、外に展開する前にまず力勝負を挑んで縦に突進したのが効果的だった。あるいはより正確には、外への展開をちらつかせながら、実は内で(つまりだからフィジカルで)勝負したというべきかもしれない。実際、WTB のゾーンでブレークするという場面はなかったように思うが、結果的に、攻撃が単調になるのを防ぐ効果は確実にあった。悪いときのフランスがそうであるように、ただ横に流れるだけではディフェンス・ラインを突破することは難しいのだから、こうした工夫――「縦縦横」(?)――は大切なのだが、今日のウェールズは、トライにつながったシャンクリンの突進など、いくつかの場面を除いては、ブリッツ・ディフェンスの圧力に負けてただ横にパスするだけに終わった。さすがにフランスがここまでラッシュしてくるとは思わなかったのか? 地味に試してきたはずの「オフロード」パスも活用されずに終わったのはどうしたことだろう?

 バスタローは以前、秋頃だったか、初めて見て即代表レベルと感じたのだが、今日の活躍からして、フリッツと CTB の位置を争うことになるのではないだろうか。
 バビは、負傷で早退してしまったものの、それまでは問題なく SO をこなした。パントなどのキックのコントロールは思いの外正確だった。しかし、このゲームだけで考えれば、HB を誰が務めようと、またどういう組合せであっても(最低限の技倆が備わってさえいれば)大した問題ではなかったということになりそうではある。ちなみに、週末のトップ 14、モントバンを迎えたトゥルーズでは 9 番ミシャラク、10 番エリサルドという組合せだった(スクレラは 12 番、エリッサルド退場後、キッカーを務めた)。
 バックスリーのアタックも興味深かった。今日の三人(エマンス、メダール、マルジュー)はタックルをかいくぐって巧みに走り抜けることができるランナーだが、同時にメダールは、対面 FB バーンの動きを見越してその逆を突くキックでも大いに貢献した。

 対するウェールズは、完全な力負けということに加えて、フランスの講じてきた対策を上回る、ないしその裏をかくような戦い方ができず、よいところはほとんどなかった。ラインアウトは終了間際の一本を除いて完璧だったというのに。イエローカードを貰ってもおかしくなかったプレーがあったことを記しておこう(シャンクリンによる危険なタックル)。

 とりわけ FW のフィジカル勝負で後手に回ってしまったこと、したがってラックからの球出しも思うようにいかなかったことが、これまでの「FW 強化路線」にどのように影響するか、興味を引かれるところである。昨年と比べトライ数が激減しているし、何より、こうすれば抑えられるというところが少なくとも部分的には明らかとなってしまったわけだから。当面は、フランスと同等かそれ以上に FW 戦に自信をもつアイルランド戦での対応が注目される。メンバーの変更もありうるだろう。
 ゲーム中に戦略を修正するというのは、ウェールズに限らず難しいものだろうが(監督ギャットランドはつねづね「チームを完成させるにはあと数年必要」といっている)、たとえば研究されていたと思われる FB のキックをこれまでと同様に多用したのはやはりよくなかった。秋のワラビーズ戦でもそう感じたが、とりわけカウンターアタックにすぐれるフランスにボールを渡すのは避けるべきだった。まあ、ラックでのボール獲得に苦しむ今日のような試合では、往々にしてキックに頼りたくなるものではあるけれど。
 などなど、今日は確かにパッとしなかったし、グランドスラムが不可能となったばかりか、優勝やトリプルクラウンさえ危うくなってきた。しかし、たとえば前半はパスプレーによるブレークも少なからずあったし、立て直しは十分可能と思う。何より、今大会随一の美しさを誇る――と断定してしまいます――トライは実に素晴らしかった。シャンクリンがタックラーを引きずりながらラインの裏に出て形成されたラックから、ボールがすぐさま左に展開され、ジョジオンとマルジュー(?)の間に出来た、そう広くはないギャップを、S・ジョーンズのパスとバーンのランの「ここしかない」という組合せによって突破したトライ。あの場面を思い返すにつけ、ラグビーに愛されているのはウェールズとフランスのいずれかという疑問がまたしても湧いてくるのである(苦しい負け惜しみとの批判は甘受します)。

 ちょっとバタバタしていて『レキップ』紙を買うことができなかったので(日刊紙ゆゑキオスクでは当日のみ入手可能)、『ミディ・オランピック』を購入する。付録つきで 3 ユーロ。一面の見出しは「反乱の内幕」(Les dessous d'une revolte)。専門紙らしく、細かなスタッツが掲載されているけれど、面倒なので割愛したい――ところだが、少しだけ御紹介しておくと、タックル成功率はそれでもウェールズが上回っている(仏 92 %=7/88 に対しウェ 94.7 %=6/114)、ボール獲得率で劣ったウェールズの大外への展開の機会が 8 に対し、フランスが 1 だそうです。

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アイルランド 対 イングランド 14-13(トライ数 1-1)

 最後の 20 分は見られなかったので、感想は少しにとどめる。
 アイルランドが勝ったこと、したがってグランドスラム&トリプルクラウン達成というプレッシャーが(おそらくは)最終戦にかかるだろうこと、これはウェールズにとってはよかったのか、悪かったのか。アイルランドの調子は上がったり下がったりという印象を受けるけれども、まあでも、スコットランド戦の勝敗の行方はまだわからない。

 イングランドはディフェンスやラックでは何はともあれ健闘した。ROG のプレースキックの「絶不調」にも助けられ、点差がさほど拡がらなかったことは集中力の持続に大いに寄与したと思う。反則は確かに依然多いのだが、必殺技「BOD スペシャル」もなぜか止めていたし、何とかギリギリのところで踏みとどまっているという感じだろうか。
 しかしそれにしても、ウェールズやフランスのきびきびしたゲームのあとでは、ボール回しを含むプレーのテンポがかなり遅く見えてしまうし、相手陣 22m ライン内に 37 分頃まで入れなかったということは(その機会に 3 点奪ったとはいえ)、やはり何かが上手く行っていないのである。アイルランドもそれに付き合ってしまったのだろうか。とにかく、イングランドは、比較的相性のよいフランスに勝ってくれたりなんかすると、ウェールズ・ファンとしては嬉しいかもしれない。

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2009年2月15日 (日)

シックスネーションズ WAL-ENG / FRA-SCO / ITA-IRE

 大学の図書館に行ったら、 "mouvement social" のため館外貸出・書庫文献閲覧を断られてしまった。政府の大学「改革」案に反対するため 9 日に学生・教職員による総会が開かれ、無期限ストライキが採択されたからである。本が借りられないというのはセイガクにとっては実に実に困ったことであるし、これまでもさまざまな mouvements sociaux (鉄道のストなど)によって個人的に迷惑を被ってもきたのだが、他方でやはり、こういう風にストやデモが日常茶飯事となっているのは、フランス社会のある面での健全さを示すものだろうとは思う。日本もやればいいのに。デモはいいものですよ。もちろん日の本にも戦争反対のデモはありますし、わたくしも参加したことがありますけど、もっと日常的にですね、ええ。

             *

フランススコットランド 22-13(トライ数 1-1)

 フランスはスコットランドにコロッと負けることがあるからなーとぼんやり考えていたが、そうした相性の問題も手伝って、だが何よりスコットランド・チーム自体の成長によって、今年度も接戦に近い試合となった。少なくともスコアとしてはそういうほかない。しかし、両チーム、とりわけスコットランド側にノックオンが多かったために、興がかなり殺がれたのも確かである。特に思い入れのないチームだから比較的冷静に見守ることができたけれど――これがジャパンだったら多分わたくしはマヨネーズのチューブを引き千切っていただろう、そして返りマヨネーズを浴びながら生きる意味について考えていたことだろう――、積極的にボールを展開し(タックル数は何とフランスの方が多かった)、よいつなぎやライン・ブレークがあっただけに非常に残念だった。

 フランスはディフェンスが好調であり、その結果として得られた PG を確実に決めて勝ったわけだが(スの反則 15、PG は 7 本狙って 5 本成功)、他方トライが 1 本に終わったのは、スコットランドのディフェンスが頑張ったからである。ラックでの早い球出しが出来ないときどうするか――というのはここのところずっとフランスの課題だったわけだが、「エコッス」より反則の少ないチーム(たとえばウェールズ)との対戦はこのままでは苦労するだろう。
 魂の奥底からの主張ということでは全くないが、攻撃時にはやはりエマンスを FB に置いた方が有効だし面白いように思う。

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ウェールズイングランド 23-15(トライ数 1-2)

 二年連続して対イングランド戦勝利の立役者となったジェームズ・フック(仏風にいうと「ウック」)の起用も予想されたなか、負傷欠場による変更を除けば、基本的に先週と同じメンバーでウェールズは試合に臨むことになった。昨年紹介した英主将の言葉にあったとおり、今回もまた「肉体と肉体のぶつかり合い」が中心だったということができるだろう。違いは、イングランド側の頑張りが 80 分続いた点、そして、にもかかわらず、ウェールズがだいたいにおいて優勢だった点である。

 スコアの上で完勝だった先週のパフォーマンスより、今週のゲームが称えられるとすれば、イングランドにとっては屈辱でもあるだろうが、それでもやはり、タックルやボール争奪局面での激しさ、極端なブリッツ・ディフェンス、そしてとりわけ相手 SH フィリップスへの絶え間ないプレッシャーは、ウェールズのトライを最小限に抑えるという意味では思惑どおり成功したといえるのではないだろうか。結果として、少なくともトライ数では上回ることができたのだから。

 イングランドの二本のトライはいずれもバックスによるものだったが、実際、今日は J・ワースリーを始めとする FW の頑張りがとにかく目立った。そして、頑張ったのだが、反則が多かった。つまるところそれが敗因なのだといってもよいけれど、他方、自陣で犯した七の反則が仮になかったとすれば、少なくとも二本余計にトライを奪われていたはずだから(最終スコアの 8 点差が例えば 2 点差になる)、勝つのはいずれにせよ難しかったろうと思われる。ターンオーバー数はイングランドの 4 に対し、ウェールズが 7 となっている(BBC 調べ)。タックル後にボールの出を妨げたとしてバックス二人がシンビン適用となったのは確かに痛かったけれど、これは試合を通じて反則――とレフェリーには見えた行為――が繰りかえされたことの必然的結果というほかない。

 今日のような試合を見ると、イングランドがトライを取って勝つゲームを志向し、実際に試みていることの現実的意義がよくわかる。絶対的なキッカーの不在が敗北に直結するような戦い方がそもそも不健全なのだから、残り三試合も、その方向で頑張って欲しいと思う。
 ちなみに BBC の BBS に「2003 年のイングランドと 2009 年のウェールズではどちらが強いか」というスレッドがあって、この比較それ自体は不可能だが(敢えていえば、やはり 2003 年のイングランドでしょうかね)、厳然たる事実として確認されるのは、2000 年から 2003 年にかけてのイングランドは実はトライを多く取っていたということである。この方向がたぶん、結局は現実的な戦い方なのである。取り方は時代により、またルール次第で変わるにしても。
 そうそう、リキ・フルーティがイングランド代表になるとは予想外だったが、チームにフィットすれば十分な戦力となりうることはわかった。ほとんど直角のステップはふつうの白人チームにはないものであり――だからこそシェーン・ウィリアムズは貴重なのである――、他のプレーヤーが彼の動き方を理解し、それに合わせるなら、大きな武器となりうるだろう。もっとも、年齢的にそう長くプレーするとは思えないので(今年 29 歳)、やはりセンターは別に育てなければならないと思う。

 ウェールズの方は、トライを簡単にとれないということで、戦い方を早いうちに切り替える余裕があった。それでも尚トライを奪って勝つべきだったとは思うけれど、やはりフィジカル勝負が前提としてある以上、やむをえないことだったのだろう。イングランドと同様、今日はとりわけ FW の頑張りが素晴らしかった。ちなみにテレビ解説の J・カザブルーは G・ジェンキンスが「オム・デュ・マッチ」だろうといっていた。
 バックスの攻撃は、S・ウィリアムズの不在にもかかわらず高速で切れ味鋭かったが、今日はセンターが「肉体と肉体のぶつかり合い」に巻き込まれざるをえなかった分、FB のバーンが WTB ハーフペニーへパスを供給する役目を担うことになった。トライに直結したものと A・グッドの反則を誘ったもの、いずれのパスもタイミングが素晴らしかった。本当によいフルバックになったものだ。
(このふたつの右オープンの攻撃、ほとんど同形といってよいアタックは、後半始まってすぐ、ほんの数分を置いて続けざまに展開されたものである。このあたり、イングランド側のディフェンス・リーダー不在が示されているだろう。)

 折に触れていっていることだが、6 番と 8 番のうち一人は、状況に応じてパスが出来るようにすべきではないか。今日の試合でも、外にパスすればチャンスが拡がるという場面があった。フィジカルに自信があるのだとしても、このレベルではやはり、そうそう簡単に突破できるわけではないのだから。
 あと、ハーフペニーは、S・ウィリアムズを見習って、ディフェンスを向上させるとともに、タックルされてもボールを活かせるようになって欲しい。体格の割に強さはあるようだが、全般的にプレーが淡白に感じられる。

(ハーフペニー、ジュード・ローにちょっと似ているよねとアルベルチーヌに言ったら、「ジュードローの方がずっとハンサム」という答えだった。でも「むしろマチュー・アマルリックと中村福助の方がそっくりだと思う」という、その「むしろ」って何? そんなこと言い出したら、スティーヴン・ジョーンズなんか丸っきりドラキュラぢゃないか!)

             *

イタリアアイルランド 9-38(トライ数 0-5)

 見逃した。

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2009年2月 9日 (月)

シックスネーションズ SCO-WAL / ENG-ITA / IRE-FRA

イングランドイタリア 36-11(トライ数 5-1)

 試合中ずっと浮かぬ顔をしていたマーティン・ジョンソンが初めて笑顔を見せたのは、終了間際、相手陣深いところでのラインアウトから思い切りのよいパス回しと、それにイタリア側のタックルの甘さも手伝って、五本目のトライを奪ったときだった。いやむしろ「自ら奪った唯一の」というべきかもしれない。イングランドのそれまでのトライはいずれも、個人的な判断のよさ(グッド、エリス)はあったにしろ、要するにイタリア側のミスによっていわばプレゼントされたものだったからである。
 予想されたとおり、とりわけ前半は SO からのキックが多用されたものの、敢えてタッチに出さず、ボールを積極的に動かそうという戦略がとられていたようだ。タッチキックで陣地を獲得するという確実なやり方を放棄し、わざわざ危険を冒しているとさえ感じられるほどにその戦略は徹底されていた(単なるミスキックもあったとは思うけれど)。それはよいとして、しかし肝腎のプレーヤーたちが監督の思い描くような形で動けていない。というか、個々の当たりではイングランドが明らかに上回っており、FW でガンガン押してゆくこともできたであろうに、それとはやや噛み合わぬプレーを選択したのは HB か、それとも監督だったのか? とにかく、WTB クエトや FL ハスケル(反則も多し!)など、よい動きを見せた人もいたのだから、そう悲観することもないとは思うが、チームとしてはまだまだと感じられた。フランスの「トップ 14」の現時点での得点王グッドがプレースキックを何度も外すかと思えば、やや停滞気味のゲームを活性化させるべくヌーンに代えて投入されたゲラーティは、ほとんど最初のプレーが「危険な行為」との判定を受けて一時退場する。張り切りすぎたための不運というほかないけれど、ジョノの隣に座るスタッフはさぞ怖い思いをしただろう。
 それでも、復帰したゲラーティとグッドのいわばダブル SO を軸とした上述のトライには、M・ジョンソンも喜びを隠さなかったし、このチームのやろうとしていることがよく表れていたと思う。ともかく途上のチームには違いない。

 注目されたグッドは、おそらく監督の期待をそう大きくは裏切らなかったはずである(称えているわけではありません)。ただし、肝腎の PG が不調のままだと、10 番の座は安泰とはいえない。
 FB のアーミテージは可もなく不可もなくという印象を受けた。後ろを見ずにパスする癖があるようだが、これは評価できない。いずれにせよ、攻撃力に関していえば、J・ロビンソンはもちろんのこと、J・ルーシーと比較しても、さほどの魅力が(少なくとも今日は)感じられなかった。

 イタリアは、陣地をとってパスで展開するというプランを忠実に実行していた。パスの回数は大雑把にはイングランドの倍である。本職でない SH (さらに SO が早期退場する)、ラインアウトの不調(6 本失った)、全体的に甘いタックルなどのマイナス点が重なったために、思うように得点できなかったものの、トライ数ほどに差をつけられて敗れたという感じはあまりしなかった。

 しかし、イングランドまでもがタッチキックを減らして攻撃型ラグビーを志向していることに深い感慨を覚える。イングランド人のファンはとうの昔に自分たちのチームに退屈さを感じていたと思うが。とにかく、「世界最高峰のノンストップ・アタッキング・ラグビーへようこそ!」(だっけ?)という矢野アナの声が懐かしく思い出されてくるね。

             *

アイルランドフランス 30-21(トライ数 3-2)

 アイルランドとフランス、いずれがラグビーに愛されているか――と、蓮實重彦にならって問うてみようか。双方の素晴らしいトライの印象はそれぞれに鮮烈で、思い返すのに苦労はないが、これは難問である。
 アイルランドのトライはいずれも、とるべくしてとったトライということができるだろう。個々のタックルの強さが目立ったフランス側のライン・ディフェンスの綻び、フィールドのほぼ真ん中に開けた、というよりむしろ、横の動きに対応しきれぬ FW 二人(シャバルとプロップ)の間を狙ってこじ開けた「扉」をエイトのヒースリップが突破して陥れた一本目。さらに、相手陣深くに入ったところでのラインアウトからの必殺技、オガーラ=オドリスコルのコンビネーション一発で奪った二本目(三本目は省略)。
 対するフランスはまず、ハーフウェイより自陣に少し入ったところから、フィールドの横幅一杯を往復しつつ 50 メートル前進してトライを奪う。明らかなオーバーラップやミスマッチが出来たわけでもないのに、魔法というか、あるいはやはり「フレア」というべきか、とにかく説明しがたい勢いがこのプレーには確かにあった。二本目はボクシスからのキックパスを受けたメダールがそのまま一直線にゴールエリアを陥れたもの。むろん、このようにしてトライをとるという意図の下に練習し、実践されたプレーではあるのだろうが、実は一本目は、短いゴロパント(メダール→ウエドラオゴ)を途中に一回挟まなければならなかったし(ラック二回)、またボクシスのキックパスは一度バウンドしている。ワンバウンド目は比較的素直に弾むものだが、要するにこれらフランスのトライには、少なくともひとつ、偶然が介入していたことになる。

 もちろん、意図したプレーが意図した通りに実現するというのは、つねにひとつの僥倖であり、したがってアイルランド側のトライもその意味では偶然の産物といえばいえる。だがこのチームにはそれを必然と感じさせてしまうものがある。アイルランドの「忠実」といういい方で人が肯定的に捉えているものがおそらくそれだ。そう、そこには否定的なものは何もない。C'est du rugby 、「これはラグビーだ」とあらゆる人が強く感じたはずである。
 それに対しフランスのプレーは、「扉をこじ開ける」(もちろんヴィルプルー=スクレラの有名な言葉)というよりむしろ、何というか山でも動かすのかと思わせるような大仰なところがある。あるいは、もっと簡単にトライがとれるだろうにわざわざ事態を複雑にしているかのような。言葉の内容と同等かそれ以上の価値を、気の利いたいい方に与える("C'est bien dit !")国民性もそこには関与しているだろう。だがその「気の利いたやり方」が偶然を招来している点に、単純に国民性へと還元してしまうことのできぬフランス・ラグビーのいわくいい難い魅力(je ne sais quel attrait)があるということもできるのではないだろうか。そこにはまた、アイルランド的「忠実」とは異なるラグビーの側面、いうなればアナーキーな一面を見ることもできるだろう。しかし、では「これこそがラグビーだ」(C'est le rugby)と人は自信をもっていえるだろうか? わからない。だが少なくともわたくしは「これもまたラグビーだ」(C'est aussi du rugby)とはいいたいと思う。

 試合全般の感想としては、悪質な反則が少なく、ボールもよく動き、勝敗の行方が残り二分までわからないという、申し分ないものだった。上記のトライ、とりわけ両チームの一本目にはどうしようもなく昂揚感を覚えた。ウェールズとの対戦がまだなので、ベスト・マッチ(ないしベスト・バウト)などとはいうのは控えるけれど、何度でも見返したくなるようなゲームだった。
 反則の数がアイルランド 2 に対しフランスが 10。その結果としての PG をアイルランドは 3 本、フランスは 1 本をそれぞれ成功させているけれども、攻め込んでから反則によって機会を逸したのがフランスには痛かった。
 個々のプレーヤーの強さではフランスが明らかに上だった。とりわけ長期離脱していたフリッツの完全復調を嬉しく思うが、BBC のスタッツによれば、タックル数(失敗)は、ア 94(15)に対してフ 71(5)となっている。実際、豪快に突破して相手ゴール前まで攻め込んだことが何度あったことか。しかしそれでも勝てなかったのは、結局のところ何かが足りなかったわけである。前半終了直前にアイルランド陣深くに攻め込んだとき、トライを狙ってよかったところで DG を選択した点に、このチーム――よいチームであると思う――の弱さが表れているかもしれない。事実、3 点を加えて点差が縮まったにもかかわらず、リエヴルモンは明らかに不満気だった。
 ただの言いがかりとなるかもしれないけれど、いつも言うように、フィールドの端から端まで目一杯に使うというのは、結果としてそうなればチャンスが拡がりもするだろうということであって、それをあらかじめの方針と決めてしまうと却って不自由になってしまうのではないか? 見方を変えていえば、今日は有効な数的優位を作り出すところまでは行かず、トライは二本ともフィールドの端だった(コンバージョン失敗の遠因)。それはつまり、まだ個人の力に頼るところが大きいということにほかならない。対してアイルランドのトライは三本とも真ん中である。偶然か必然か――この問いは奥が深い。また、ラックでのアイルランドの優位を最後まで覆せなかったことも響いた。フランスの FW もみなそれぞれに頑張ったのだが、アイルランドの第三列が今日は上回っていた。

 それにしても、オガーラ=オドリスコルのスペシャルプレーは、わかっていても(トライネーションズ以外のチームには)止められないプレーの代表格といえるだろう。アウトラインとしては「12-13 のクロス」ということになるだろうけれど、オドリスコルの背後で外に流れる 12 番(P・ワラス)と、オガーラからのパスを「ノビ」てキャッチするオドリスコル、この二人の動きによってジョジオンの意識を外側に向けつつ、ボクシスとオドリスコル――抜く/(ワラスへの)パスというオプションゆえの優位に(やや翳りが見えるとはいえ)あの加速が加わる――の一対一状況を作る。しかもこのプレーはフィールドのほぼ真ん中が焦点になるために、防御側も的を絞ることができない。たぶん、こうなる前に、ということはつまりラインアウトの段階でプレッシャーをかける以外に有効な手立てはない気がする。ウェールズはどう対処するだろうか。

 フランス戦に限ってフランス 2 は独自映像を使用するようである。アイルランド国歌や「アイルランド・コール」の歌詞仏訳が出るのはまあ悪くないけれど、BBC 映像が提供するような各種スタッツが全くないというのはやはり困る。

〔追記 フランス人名、ティユス=ボルド(Tillous-Borde)とルクルス(Lecouls)に訂正する。〕

             *

スコットランドウェールズ 13-26(トライ数 1-4)

 個人的には優勝候補筆頭と考えているウェールズが、高い攻撃力を見せつけた試合。英・伊戦とは逆に、点数以上の力の差が感じられた。
 もっとも、四本目のトライのあと、残り 20 分となったところで、控え選手をすべて出す――ということはチームの半分を入れ換える――という、相手チームへの敬意をやや欠いたと見る向きもあるだろうギャットランドの采配によって、勝敗という意味での興味は最後まで持続することとなった。実際、スコットランドが最初のトライを奪って 13ー26 とした後半 30 分、WTB の S・ウィリアムズが負傷のためベンチに下がり、かつ数分前に FL の M・ウィリアムズがシンビンとなっていたことから、ウェールズは残り 10 分の大半を 13 人で戦わなくてはならなくなっていた。

 ちょっとした判断ミスやハンドリング・エラーのため、またプレースキックの不調、そして何より気の弛みのせいで、得点はさほど伸びなかったものの、心配されたラインアウトが今日はほぼ完璧、スクラムで相手ボールを二、三度奪って、前後半二本ずつトライをとるという、圧倒的な攻撃だった。
 フランス 2 解説のF・ガルチエは「1970 年代が思い出されますね、フィル・ベネット! J・P・R・ウィリアムズ!」と二度述べていた(ちなみにガルチエは 1969 年生まれなので個人的記憶が本当にあるかどうか定かではないけれど、"On retrouve les années 70" と言ったので、発言自体に問題はない)。またアナウンサーのマチュー・ラルトはシェーン・ウィリアムズを指して "eléctro-libre, ou libéro" つまり「電気仕掛けのリベロ」などといっていた。自分のことを棚に上げてよいなら、全く軽薄な奴らというほかない(笑) 黄金時代のウェールズはわたくしもリアルタイムで見たことがないので、判断は有識者に委ねるけれど、とにかく目を瞠るほど素早い、いわば電光石火のアタックに改めて感嘆させられた。

 フランスの一本目のトライがフィールド 1 往復の運動を要したとすれば、アイルランドのそれは 0.75 往復、そしてウェールズのトライは 0.5 往復必要だったということになる。ウェールズの場合は、ラインアウトがすぐラックとなって、ワンクッション置いた形だが、そこからトライまでは一直線だった。ラインブレークはシャンクリンからのパスを受けたS・ウィリアムズと、その外にいたバーン(さらに外にはハーフペニーがいた)との間でのシザーズが起点。タックルを受けながらも半身だけ裏に出たバーンが内側のシャンクリンに返してトライが生まれたが、ここでは、もう一度外に振って二人の WTB に託すこともできたろう。ラックとなって逆方向に折り返すことになった可能性もあるが、ウェールズがショートサイドを上手く使うことは昨シーズンすでに証明されている。要するにオプションが複数あったわけで、いずれにせよトライはほぼ確実だったということになる。このウェールズ的速さがアイルランド戦やフランス戦でも同じように見られるかどうか、個人的には非常に興味深い。
 
ラックでのボール争奪は昨季以上に「いやらしく」なっており、この点でもアイルランドとのマッチは楽しみである。

 スコットランドに触れる紙幅がなくなってしまったので簡潔に。
 スピードに乗ったプレーヤーがパス、とりわけ手渡しに近い短めのパスを主体としてボールをつないでゆく局面にはワクワクさせられた。ウェールズのディフェンスはやはり堅いので、トライは一本に終わったが、イングランド戦にも同じ戦い方が出来れば勝てるのではないか。ミスを減らせばだが。
 WTB マックス・エヴァンスの個人技によるトライは見事だった。

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2009年1月31日 (土)

シックスネーションズが来週から始まる(改)

 シックスネーションズに向けて、各チームのスコッドが発表され始めている。絶対的な強さをもつチームはないとの評価がある一方で、やはり展望についての自信の表れだろうか、真っ先に発表したのはウェールズだった。先日のマッチ(ハイネケンカップ)で足首を傷めたL・バーンの回復具合は気に懸かるけれども、他方、負傷のため秋のテスト・シリーズに出場しなかった G・ヘンソン、J・トマス、M・フィリップスらが復帰し、昨年度のグランドスラム・チームと比べて遜色のない陣容と、ひとまずいうことはできる。

 少なからぬ驚きをもって受け止められたのが、D・ピールの不選出。ギャッツのお気に入り SH がフィリップスであることは間違いないし、よほどのことがない限り彼が一本目ということになるだろうが、その控えとして G・クーパーを起用するという点をめぐって賛否両論が提出されている。たとえば BBC のフォーラムなど、アイルランドやイングランドのファンまで議論に参戦しており(二日で 100 の投稿)、夏のライオンズのメンバー選考にもかかわるとはいえ、イギリス人はやはりマメだなと思った。

 それら投稿の大半はピールの方が(フィリップスよりも、だがとりわけクーパーより)上だとしている。気持はわかるけれど、現在のピールならさほど差がないようにも思われる。確かに 2005 年のパフォーマンスは素晴らしかったけれども、その後は残念ながらパッとしない(その点は「ピール派」も認めている)。他方、クーパーも 2003 年のファースト・チョイスだったわけだし、年齢もピールとは二つ(フィリップスとは三つ)違うだけで、さらに昨秋ワラビーズに勝ったメンバーでもあるため、選ぶのは確かに大変である。

 フィリップスがファースト・チョイスになったことはそれに比べれば理解するのは易しい。一言でいうならそれは、ウェールズのパックが強くなったために、〈弱い FW と素早い SH〉 という組合せに頼る必要がなくなったからである。というか、これは言い方が逆で、まず他チームにはない個性としてフィリップス起用が決まり、そのために何が必要かを計算した結果としてのフォワード強化ということだろう。フォワードが強くなることそれ自体は、持久力も同時に強化されるなら、悪かろうはずはない(個人的にはマイケル・オーウェンの復帰はもうないだろうことを悲しんでもいるけれど)。
 事実、秋のテストマッチでウェールズは「オフロード」パスを積極的に試みたわけで、要するにフィリップスが相対的に「鈍重」であり、したがってラックへの寄りが遅くなるということであれば、ラック形成を可能な限り少なくすればよかろう――と、そういうことなのだと思う。
 昨年のシックスネーションズ最終戦、対フランス戦でのマーティン・ウィリアムズのトライ――フランス 2 の J・アベイユーは興奮して「グランドスラム・トライ(essai de grand chelem)!」と叫んだ――は、ラックからボールを持ち出したフィリップスが、まるでロックのようにフランス DF に突っ込んでいって出来たラックから生まれたものだった。SH が核となったラックにスイープ役として SO スティーヴン・ジョーンズ(と他一名)がサポートに入るというあり方(むろんそこだけ取り出して見れば、実際にはどのチームにもふつうに起こりうる場面ではあるが、SH が敢えて LO のようにプレーするという点でやはり違いが認められる)に、かつてキャンピージーが苦言を呈したとされる、だが現在「南半球」的ないしニュージーランド的と認識されてもいる「FW と BK の別のないラグビー」へのある点での接近を指摘することは可能だろう。
 2005 年の「セクシー」ラグビーとのトレードオフといえる、フィリップス起用とフォワード強化。それが本当にトライネーションズに伍す最善のやり方かどうか、答えはまだ出ていないけれど、他にはない個性を活かす方向でのチームづくりというのは、日本代表のことを考え併せても興味深い。ウェールズには、他方で S・ウィリアムズ→L・ハーフペニーという系譜、すなわち小柄・俊足のウィンガーでトライを取るという別の個性もあって、うらやましく感じる。ほとんど唯一の問題は多くの人が指摘するように、7 番 M・ウィリアムズの後継者が育っていない点で、BBC によれば、2011 年の W 杯で彼がプレーできるように、つまりそれ迄に消耗してしまわないように、出場試合数をコントロールして「選手生命」を延ばすことで協会とクラブとの合意が形成されつつあるらしい。ほとんど「国の至宝」扱いだが、実際、年齢、つまり数字だけでどうこう言うのはおかしなことなので、行けるところまで行けばいいと思う。応援しています。

           *

 対してフランスはというと、個性がありすぎて、強化の方針が定められないように見える。それはいい換えれば、ギャットランドというガイジン監督の断行したウェールズ的「トレードオフ」はできるかぎり避けるということだろう。とてもフランス的なやり方とはいえるけれど、首脳陣の苦労はその分大きくならざるをえない。個性というものに対するこうしたふたつの異なった態度、これも実に興味深い(他の4チームにもそれぞれ固有の態度があるのだろうが割愛する)。

           * * *

 とか何とかいっているうちに、各チームのメンバーが発表されているので追記する(二月五日)。

 ウェールズには著しい驚きはなし。敢えていうなら、いつも苦労するフッカー(ラインアウトに関して)選び、そして CTB に「グランドスラム」コンビのヘンソン=シャンクリンではなく、ヘンソン=ロバーツのコンビ――この組合せは秋のテスト・シリーズの当初予定されたものでもある――を先発させることくらいか。

バーン
ハーフペニー、シャンクリン、ロバーツ、S・ウィリアムズ〔CTB が変更されたので修正した〕
S・ジョーンズ、フィリップス
ジェンキンス、リース、A・ジョーンズ
ゴフ、A・W・ジョーンズ
R・ジョーンズ、M・ウィリアムズ、パウエル

 イタリアは主だった候補の負傷により、マウロ・ベルガマスコを SH に起用する。ちょっと楽しみかな。こういう漫画みたいな展開、決して嫌いではない――とはいえ実際的な利点もないわけではない。「マウロは 7 番にいるときより多くのタックルをこなさなくてはならないだろう」と監督ニック・マレットは予想している。いずれにせよ全責任は自分にあるとマレットが請合っているのだから、ベルガマスコ=マルカトの HB は萎縮することなく堂々とプレーしてほしい。

 対するイングランドでは、シプリアニの落選(イングランド A への降格)ということ以上に、A・グッドの起用が注目される。T・フラッドの負傷のため止むを得ずということなのだが、ゲラーティ(控え)を差し置いての選出に対する批判、あるいはそもそも「またあの退屈なキッキング・ゲームか」という苦言が賑わいを見せている。
 二点目に関しては、本場のファンでもイメージでしか語らない人がいるのだなという感想を抱いた。実際にはパスプレーも上手で、「退屈きわまるバック・ライン」の原因はむしろセンターにあるのだから。一点目については、セレクターのマーティンジョンソンがよく知っている、そして移籍したブリーヴで好調をずっと維持しているというグッドの選出は、とりわけ勝利が第一の目標である以上、当然といえるだろう。ゲラーティは点差が開いて勝利が確実となった時点で(そうなるかどうか予断は許されない)出場させればよいのではないか。
 個人的にも、フランスに移ってからのグッドは知らないので、どうなっているか見てみたい。

 フランス。

ポワトルノー
マルジュー、フリッツ、ジョジオン、メダール
ボクシス、ティユス=ボルド
ウエドラオゴ、アリノルドキ(No. 8)、デュソトワール
ナレ、シャバル
ルクルス、スザルゼウスキ、フォール

 『レキップ』紙の報じるところでは、マルク・リエヴルモンいわく、「(ボールを動かすという意味での)プレー」のため、そして「トライをとって勝つ」ためのセレクション。いい換えれば、実験段階は終わり、真の意味におけるチームとして(自信とともに)選んだということになる。
 監督談話というものをそのまま信じてよいのか、一般論として迷うところだが、「ボクシスは(10 番候補のうち唯一)アングロサクソン的なところがある」とリエヴルモンはいっている。また、クラブで FB をやっている経験からも大きなものを得ているはずだと。こちらも楽しみ。

〔人名、ティユス=ボルド(Tillous-Borde)とルクルス(Lecouls)に訂正した。〕

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2009年1月29日 (木)

ハイネケンカップ プール第六週

 週末にフランス 2 でハイネケンカップ一試合、「バース 対 トゥールーズ」を観戦する。

 とてもイギリス的な環境と天候のなか行なわれたプール 5 の最終順位決定戦。二位からの逆転を目論むフランス側にはしかし、キックオフの段階ですでに他プールの試合結果が、つまりは二位のままでもノックアウト・ステージ進出可能ということがわかっていたようである。
 マッチは 3-3 の引き分け、トゥールーズは準々決勝をミレニアム・スタジアムでカーディフ・ブルーズと戦うことになった。この試合は見応えがありそうだ(4 月 11 日)。

 かなり強い雨が断続的に降り、地面はなかば凍りつつ、そこかしこに水溜りが出来ているグラウンド状態ゆえ、ゲームはまずはキックの応酬となった。バースのブッチ・ジェームズ、トゥルーズの「ジャンバ」・エリサルド、二人ともキックを得意とする SO であり、この戦術はいろいろな意味で理に適っているとはいえる。見所はしたがって、攻撃指向で、且つ、言葉本来の意味における「プレー」を好む両チームが、いつ本来の戦い方に転ずるかということになった。それまでは見る方もしばらく我慢。
 B・ジェームズはトゥールーズの攻撃をロングキックで跳ね返したり、相手 FB らを標的に再三パントを蹴り上げたりしたが、トゥールーズ側のキック処理はほぼ完璧で、とりわけポワトルノーはミスが全くなかった。いやー、成長していますねえ。後半の後半に退いたのは、疲労(ジャージの汚れ方が凄かった)のため、そしてクレールの出場機会を作るためだった。この調子ならレ・ブルーでも少なくともディフェンスに関しては問題ないだろう。後半に入ってから、パスプレーによる展開を多く試み、敵ゴール前まで攻め込む場面もあったが、結局ノートライに終わった。
 対するトゥールーズは、SO からのハイパントばかりではなく、何回か短いパスをつないで展開するのだが、敵陣 22m に入るとエリッサルドは判で捺したように毎回パント(高さは「ハイ」~「ミディアム」)を上げて仕留めようとした。これはやはり、無理せず効率よくというだったのだろうか。しかし結果は――相手のハイボール処理のもたつきなどからゴールライン前のチャンスもあったにせよ――PG の 3 点のみに終わった。ディフェンスはともにがんばっていたし、今日は両チームのプレースキッカーが不調をきわめたこともあって、結局スコアは前半の 3-3 から動くことがなかった。

 トゥールーズの 22m ラインの少し外側でのマイボール・スクラムの場面(前半)。9→10、そしてラインの内側にいるキッカー役のエマンスにボールが渡ったのだが(つまり陣地獲得のためのタッチキックを狙っていた)、エマンスのキックは「ダイレクト・タッチ」となり、蹴った地点まで戻されてしまった。蹴りそこなったというより、割とふつうに(つまり勘違いして)直接タッチの外に蹴り出したようにも見えた。

          *

 シックスネーションズ初戦、対アイルランド戦のメンバー。『レキップ』のサイトより。同紙記者による解説はこちら

Avants(フォーワヅ)
 バルセラ、フォール、ルクルス、マス、ケイゼール、スザルゼウスキ
 シャバル、ナレ(主将)、ミロ=シュルスキ
 デュソトワール、アリノルドキ、ウエドラオゴ、ピカモール

Arrières(バックス)
 パラ、ティユス=ボルド、ボクシス
 バビ、フリッツ、ジョジオン
 マルジュー、エマンス、メダール、ポワトルノー

 そうか、これでアイルランドと戦うのか。第一列はどうなるのだろう(トゥールーズのセルヴァもよい突進を再三見せていたのだが)、セレクションはいまだに "toujours en construction" といった趣である。実際、M・リエヴルモンは、上記二番目の記事に紹介されている談話で「W 杯の直前ではないのだから若いプレーヤーを試したい」という趣旨のことを述べている。ワールドカップが中心と、はっきり言われているわけで、違和感をもつ向きもあるだろう(わたくし自身の考えは内緒)。クレールは二月末のウェールズ戦などに間に合えば、というところだろうか。
 10 番の専門家がボクシスのみだが(ただしクラブでは常に SO をやっているわけではない)、最大の驚きとされたのはむしろエリッサルドの落選。この人はゲームの理解や「こすさ」(この場合は「気が利く」の意)も含め、実にフランス的なスクラムハーフではあり、プレースキッカーとしてはスクレラやミシャラクより安定している。コーチ陣もその実力は十分に認めているのだが、たとえばシャバルやジョジオン、エマンスら、年齢が同じないし上の人たちが選ばれる一方で、ミシャラクが選ばれていない(そもそも構想外という話もある)ことからして、年齢をいうだけでは十分に説得的とはいいがたい。記者 B・ラガシュリは、エリッサルドが 2011 年の構想から外れてしまった可能性を示唆している。

 エリサルド(の SO)の問題点は、ランのオプションがないことである。走れないというより、走らないということだろうと思う。いずれ気が利くプレーヤーではあり、キックも多彩だから、彼のゲーム・メークはそれなりに楽しめはするのだが、自分で抜けてゆくというような場面は見た記憶がない。ミシャラクやスクレラ、トラン=デュックは自ら走って抜こうとする。ボクシスも――腿のあまり上がらない、地表に重力が弛むことなく働いていることを時ならず思い出させてくれる独特のフォームで――走る。そうしたオプションがないために、ジャンバのプレーには時に物足りなさを感じてしまう。
 
ディフェンスも基本的には免除されているように見える。ウィルコのようにとはいわないが(そもそも役割が違う)、せめて前任者ガルチエの必殺技「ヘッドロック」を見習うくらいのことをして欲しい。ウェールズの対面には 190cm・100kg の M・フィリップスがいるのだから。
 (もちろんハイタックルはよくないのだが、反則すれすれの巧妙なやり方でガルチエがピンチを防いだ場面が少なからずあったと記憶する。ちなみに昨年度のフランス 2 のラグビー用「番宣」、〈ガルチエへの一問一答〉には「ヘッドロック(cravate)?――絶対必要だよ(C'est de rigeur)」というものがあった。他には「スコットランド対ウェールズ?――勝者がいて、敗者がいる」(お前さんは長嶋か)など。ま、そういう人です。)

 ミシャラクはデビューが早かったのでベテランの風情も漂い始めているがまだ 26-7 歳なので、次の W 杯でも年齢的には十分戦力になりうるように思われる。というより、活躍して欲しいと願う。なぜ選ばないのか、よくわからない。

〔人名、ティユス=ボルド(Tillous-Borde)とルクルス(Lecouls)に訂正した。〕

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2008年12月15日 (月)

ハイネケンカップ プール第四週

 体調の好し悪しを測る指標は人それぞれだろうが、わたくしの場合それは便通である。体調が本当に良いとき、ブツは、ツルっというか、スルッというか、そんな感じで行儀よく排出される。出口周辺は全く汚れず、したがって拭う必要がない。だいたい一週間から十日に一度くらいはそうした非ラブレー的便事情となるのだが、現在それが三日連続という自己最長記録を更新中であり、ある意味で異変ともいえるこの事態には我ながらさすがに驚きを隠せずにいる。
 もっとも、体調が好いといっても、それをそのものとして実感できるわけではない。わたくしは元来頑健ではあって、ほとんど常に好調を維持しているからだ(こういう人間が前触れのないままコロッと逝くとはよくいわれますけどね)。ただ昔何かで「本当に調子が良いとき、腸の内壁は適度な水分で潤っており、ブツは腸内を滑るようにしてスムーズに移動する」云々という説明を読んだ記憶があるので、ああそうなんだと思うだけである。それでもやはり気分はよくなる。だって拭かなくてもいいんだから。
 というような話を家人にすると――

 あなた、拭いてないの?
 いや、だから、ポイントはそこぢゃなくて……だって、一度は確認してみないと「拭かなくてよい」かどうかわからないでしょう? 紙を見て確認しなければ。
 私は見ない。
 でも、確認しないと、ちゃんと拭けてるかどうかわからないぢゃない?
 見・ま・せ・ん・!
 ぢゃあ俺も見ない。
 ……。
 ……(何なんだ、この展開は? 俺はただ「絶好調」って言いたかっただけなのに……ゼッコーチョー!)。

             *

 そういう次第で、週末にフランス 2 でハイネケンカップの二試合を観戦する。昨日はプール 1 「マンスター 対 クレルモン・オヴェルニュ」、今日はプール 3 の「ペルピニャン 対 ライスター」。

 フランスでは国内一般ニュースで報じられるだけのバリューをもつ「ダン・カルテール初登場」を翌日に控えた土曜、クレルモンとマンスターの二回戦は前週に劣らず面白かった。マンスターはおそらくノックアウト・ステージに出場し、それなりに勝ち進むだろうけれど、たとえばそこで対戦する(かもしれぬ)トゥールーズがこれだけのゲームを演出できるかどうか、やや疑わしく思う。少なくとも今回の二試合は前回大会の決勝より面白かった(王者の順当に勝つゲームが好きではないという個人的なバイアスはあるでしょう)。

 開始から 5 分ほどクレルモンが一方的に攻めるも得点機を作るまでには至らず、その後しばらく一進一退のゲームが続くなか、18 分にマンスター 5 番オコネルとクレルモン 4 番のカドモアのラックでの小競り合いが殴り合いに発展し、カドモアが退場、オコネルは一時退場という裁定が下る。スポーツにおける乱闘が面白いのはなぜだろう? 一番面白いのは両軍関係者が総動員されるプロ野球の乱闘だが、この場合も 2 メートル級の大男二人が殴り合うという、漫画なら見開き枠なしの大ゴマを使って描かれるような出来事であるわけだから、面白いに決まっている。問題は肝腎のラグビーがその乱闘の面白さを超えうるかという点だったが(プロ野球は非常にしばしばそれに失敗する)、それは杞憂に終わった。残り 60 分を 14 人で戦わなくてはならなくなったクレルモンが感動的な――大袈裟にいえばヒロイックな――ゲームを見せたからである。

 オコネルが復帰するまでの 10 分の間に、ゲームの均衡が破れる。それぞれが PG を決め合い、6-3 でマンスターがリードする形となる。15 人対 14 人になってから、39 分にこの試合初のトライが生まれ、マンスターが 11-3 とリードを広げて、前半は終了するのだが、クレルモンの方は、七人でのスクラムをよく耐え(マイボールを奪われたのは一、二回)、果敢にタックルし続ける。そしてボールを奪うとバックス――バビ、ジュベール、ナラガ、マルジュー、フロッシュ――が個人技で、あるいは少人数ながら絶妙のコンビネーションでラインをブレークする。ノックオンなどエラーがあって、トライにこそ結びつかなかったものの、数的不利を感じさせない、いわば頭を使った攻撃は立派だった。キックを最小限にした戦略も奏功したと思う。
 さすがにこれをずっと続けるのは大変だろうとヒヤヒヤしながら見ていたのだが、クレルモンは後半も同様に攻め続け、20 分、ついにマルジューのトライ(+コンバージョン)で 11-13 と逆転する。ナラガ(ジュベールだったかもしれない)が巧みに突破したあとのラックからすぐ出たボールをマルジューが四、五人をかわしてコーナーぎりぎりにタッチダウンしたものである。

 前の試合と同じ展開で、にわかファンのわたくしは祈るような気持ちで観戦していたが、客観的には、クレルモンはラックでほとんど常に、マンスターより多くの人数を使わなくてはいけなかった。この点での効率の悪さ、感動的ではあったのだが、いやな予感というか、つまりマンスターはやはり強いのだなと感じざるを得なかった。実際、逆転した後もクレルモンはずっとゲームの主導権を握って敵陣で攻め続けたのだが、マンスターのディフェンスが反則なしでよく耐えたため、追加点を奪うことができなかった。
 結局、体力・気力とも限界に達してしまったクレルモンの攻撃が途絶えた 36 分、そして 38 分にマンスターが連続でトライを奪って勝負は決まった。クレルモンには残念な結果となってしまったが(あと 4 分耐えていれば!)、悪質な反則も――殴り合いは別とすれば――皆無だったし、大会ベストマッチのひとつといってもよいだろう。
 マンスターはとりわけ第三列が攻守にわたって最高のパフォーマンスを見せた。クレルモンがラックで苦しんだのは、マンスター第三列の働きがあまりに素晴らしかったためである。ふたつのトライもそうだが(もうひとつ、2 番のホランが先週とほぼ同様の形で奪っている)、ラックでの反則スレスレの絡み、タックルの力強さには感嘆した。

 解説はジェローム・カザルブー。彼の解説は、同年代の F・ガルチエや Th・ラクロワのそれと比べ、より中立的と感じられ、また非常に真面目である。この日はアナウンサーが「いちびり」だった。いつものジャン・アベイユー(微妙に南部訛りの残るラグビー一筋の journaliste)にも、ということは結局フランス・テレヴィジョンの面々には、だいたい皆そういう側面がある。
 周知のとおり、アイルランドではプレースキックは、無音といえるほどの静寂のうちで厳粛に執り行われる。そうした静寂を「宗教的な」と形容しながらローラン・ベレは、次第に実況の声量を落としていったのだった。一歩間違えば「悪ふざけ」や「冒瀆」と解されかねないけれど、これは決して侮蔑の表れではない。自分がそういう人間だからよくわかるのだが、この人は単にいたずら好きなのである。つまり、本音では「ほどほどでいいじゃない?」とたぶん思っていて、距離をほとんど無意識の裡に取ろうとするのだが(=彼我の差異を尊重するということ)、言葉として表明することができない場合、その距離感は時に「笑い」となって現れ出る。ベレ氏が実際に声に出して笑ったというのではない。ただ彼のアナウンス自体に、いわば距離感としての「笑い」が体現されていたということである。スタジアムの方はといえば、B・ジェームズが蹴る際には完全な静寂とはならず、数は少ないながらもクレルモン・サポーターが(おそらくは小声で?)声援を送っていた。

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 ペルピニャン、勝つには勝ったが、ボーナスポイントを得ることはかなわず、決勝トーナメント進出は非常に厳しくなった。最後のワンプレーでボールをタッチに蹴りだしたのはなぜ? 折角カーターを獲得したのにもったいない(ジャージの売れ行きは好調だそうですが)。

 最後の最後で諦めてしまったのは残念だったが、ボーナスポイントを取るためにということだろうか、ペルピニャンは最初から積極的に攻めて主導権を握ることができた。スクラムはやや優勢、プレースキックは互角と見えたが、クレルモンの場合とは異なり、こちらは後先考えず無理するというより、普通に戦って普通に勝ったという感じである。攻撃では、どちらかといえば短めのパスを巧みにつなぐのが主体だったが(この連携は見ごたえがあった)、いちばん目立ったのは SH のニコラ・デュラン。とくに自らボールをもって走るプレーが効果的だった。
 カーターは今日はむしろディフェンス、好タックルで存在感を示した(プレースキックの正確さはいうまでもない)。もっとも、対面の T・フラッドに抜かれてしまったのを追いかけてようやく止めるという、危ない場面が一度あった。

 ふつうにペルピニャンが優勢なので、もっとトライを取れるかとも思ったのだが(相手のタックルは総じて甘かった)、ライスターの方も後半の後半くらいに調子を取り戻して、点数的には競った試合になった。ラックでの反則によってペルピニャンの攻撃を遅らせようとする場面が多かった、これは評価の分かれるところかもしれない。
 攻撃では FB マーフィーのライン参加が目立ったが、ウィングが余っているのになぜかキックを選択して、チャンスを広げられずに終わることが多かった。戦績が低迷しているのもうなづける不可解な戦略だった。
 フラッドのプレーには、シプリアニの SO デビュー時(正確には二試合目)のようなスリルは感じられず、可もなく不可もなくといったところ。年齢などの条件を度外視しての話だが、A・グッドの方がむしろよかったのでは?と個人的には思う。とにかく、チーム全体として特に際立ったところがなく、中途半端な印象をもった。まあそれだけペルピニャンの調子が良かったということでもあるのだろうけれど。

 ちなみに、スタンドではジョー・マゾとベルナール・ラポルトが並んで観戦していた(かつてのいわば「冬の風物詩」である)。ラポルトは後半からテレビ解説に加わったが相変わらずの早口だった。

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2008年12月11日 (木)

ロンドン・アイリッシュ 対 ダックス(チャレンジカップ)

 フランス 4 でヨーロピアン・チャレンジ・カップ、プール 2 の「ロンドン・アイリッシュ対ダックス」を観戦する。サッカー専用フィールドでのラグビーというのは困りものだ。ゴールラインが二本(!)あるというのも紛らわしいし、さらにゴール・エリアの狭さ、たとえば全速でトライラインを駆け抜けるなどした場合、勢い余ってタッチダウンするより早く外に飛び出てしまうような狭さは、プレー自体にも確実に影響あるわけで、日本ラグビー協会は霞ヶ丘他のフィールドのゴールエリア拡張に向けて働きかける必要があるのではないか? ワールドカップ決勝であの緑色のシートは見たくない。見たくない。

 戦前から予想されたことだが、現在プレミア・リーグ首位のロンドン・アイリッシュと、トップ 14 に昇格したばかりの US・ダックスとの間には力の差がかなりあって、前半 12 分で 17-0、ダックスは後半 33 分に初の(そして唯一の)トライを奪うまで無得点、最終的なスコアは 59-7 という、残念な数字となってしまった。
 SONY がスポンサーに名を連ねるダックス、実は初めて見たのだが、最大の問題はディフェンス。一次防御を突破されると、即トライという、強豪チームと対戦したときの日の本チームと全く同じ状態だった。体力が消耗した後半の後半というのではなく、最初からそうだったのである。ディフェンスのシステムが整備されていないとは考えにくいので、おそらくはファースト・タックルが決まらないことでバックアップが間に合わなくなったということなのだろう。詰めると決めた場合はそれなりにタックルは成功していたけれど、全体的には、アイリッシュの強くて速いアタックに対応できず、防御網がいわゆる「ズタズタに引き裂かれる」状態となってしまった。
 
攻撃の方は、ボールが獲得されさえすれば、SH プゼや SO テュケ・FB ディアズらの的確なランを中心としてかなり魅力的な展開を見せていただけに惜しまれる。まあアイリッシュのようなチームがこのレベルの選手権大会に出場しているのがそもそも間違いともいえるわけで、仕方ないのだろう。監督のトマ・リエヴルモンは、自軍のトライに、辺り憚らず喜んでいた。

 ロンドン・アイリッシュの方は、マイク・キャットの後に、昨季まで FB(+キッカー)だったヒューアットが入り(だからイングランド代表としても期待されるゲラーティなどは CTB の控えに甘んじざるを得ない)、彼の確実なキックと、WTB のオジョ、CTB のセヴェアリ、FB のアーミテージらの魅力的なアタックとが上手く噛み合った攻撃、そしてダックスのそれとは好対照な、よく整備されたブリッツ・ディフェンスが好調のようである。今日はセヴェアリとオジョがガンガン突破した。ただしヒューアットのプレー選択は、回すべきところでゴロキック(ゴール前の攻撃)、あるいは自分で突進して捕まるなど、いくつか疑問の残る場面があった。それでも、四試合で 30 トライという攻撃力は群を抜いており、決勝トーナメント進出は全く危なげない模様である。

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2008年12月 7日 (日)

ハイネケン・カップ プール第三週

 確か 2007 年 W 杯の頃に「カムアウト」したウェールズ出身のレフリー、ナイジェル・オーウェンズ氏が先頃自伝『ハーフタイム』を出版したそうで、インタビュー記事を BBC のサイトで読むことができる(Nigel Owens, Lynn Davies, Hanner Amser: Hunangofiant Nigel Owens, Talybont: Y Lolfa, 2008)。本自体はどうやらウェールズ語で書かれているらしいので、全く読めないけれども、インタビューによれば、自身のセクシュアリティに思い悩んだ末に自殺を試みたことさえあったとのこと。彼が迫害を受けたりせず、キャリアを続けてゆくことができたのはとてもよかった。
 「カムアウト」という行為自体は今も昔も決して容易ではないが、社会的に受け入れられやすくなったのは確かだとオーウェンズ氏はいっている。ラグビーをめぐる言説はホモソーシャルなものがあるとしても、ラグビー自体は寛容なのだといえるかもしれない。また、これが仮にサッカー界であれば、ピッチに立って仕事を全うしてゆくのは困難かもしれなかったと推測されている。アンチ・サッカーではない(サッカーを観るのは好きだから)けれども、ラグビー・ワールドは、「コミュニティ」としてはサッカーのそれとは違うのだと。

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 週末にフランス 2 でハイネケンカップの二試合を観戦する。今日はプール 4 「スタッド・フランセ・パリ 対 ハリクィンズ」、明日はプール 1 の「クレルモン 対 マンスター」(前回の覇者、登場)。

 大会新という七万超の観客が動員されたスタッド・ド・フランスでのゲームは、双方が攻め合う(これはクラブ同士の試合だからある意味当然ともいえるけれど)、派手で、楽しいマッチとなった。
 試合前の出し物(何といえばよいのかな、仏語だと fête になる)、鷲に黄金色の楕円球を運ばせたり(これは動物虐待には当らないのか?)、その金球が最終的に「ブランシュ・ド・カスティーユ」に手渡されたり、「レ・ポンポン・ガールズ」が踊ったり、といったアトラクションは個人的には必要を感じないなあ。観客としては、そわそわしつつ席に腰を下ろし、上の空で連れと言葉を交わしたり、キョロキョロしたりしていると、前触れもなく静かに三十人のプレーヤーがフィールドに姿を現し、各自がサッとしかるべき位置を目指して散ってゆくのに気が付いて、大急ぎで心の準備をするものの、間に合わずに半ば取り乱し気味にレフリーの笛の音を聞きつつ、それでも何とか拍手は送る――というような始まり方が理想です。もちろんこれは、日本での「社会人ラグビー」観戦という個人的経験に大きく影響された嗜好に由来するだろう夢想にすぎず、世界的に通用するようなロジックを打ち出そうということではない。実は昨年から、米 NFL の優勝決定戦、いわゆる「スーパーボール」が、途中のコンサートも含めたパッケージとして国営フランス・テレヴィジョン(
フランス 2)で生中継されるようになったので、こうしたアトラクション導入の傾向が弱まることはないだろうと、やや気が滅入りもするのだが、何にしろ短時間で済んだのはよかった。どうでもよいがブランシュ・ド・カスティーユ役の女性は本当に綺麗だった。綺麗だった。

 スタッド・フランセ(だから今日は例の第三ジャージ)はベストのフィフティーンがなかなか揃わず、いつもメンバー編成に苦労するのだが、今日は、FB の本職がいないバックスリーのディフェンスの未熟さを突かれてしまった(ハリクィンズ二本目のトライ)。相手ボール・スクラムのショートサイド、つまりウィング一人で守っているエリアをゴロキックで攻められ、SO エルナンデスがカバーしてボールを一旦は確保したものの、WTB のジュリアン・ソバードとのパスの呼吸が合わず、こぼれてしまったボールを拾われ、一気にゴールラインを陥れられる――時折、どのレベルのマッチでも目にする光景ではあり、そういう「盲点」をうまくついたハリクィンズ SH ケアの殊勲だったと言ってもよいのだが。

 攻撃の方では、エルナンデスではチームに勢いが出ないのを見て、12番のリーベンベルクを SO に、「マゴ」を FB に下げる布陣に変えたのが奏効し、後半はボールをよく動かして果敢に攻めたけれども、大事なところで各種ハンドリングエラーが出て、最終的にはトライがひとつのみという結果に終わった。ラックでの反則が後半 10 分頃までゼロという素晴らしいゲームだっただけに、尚のこと惜しまれる敗戦だった。
 ブライアン・リーベンベルクは、次のプレーを読ませない独特の間合いとフォームをもった選手だということに初めて気づいた。代表でのプレーは正直いってあまり印象に残っていないけれど、その後も成長しているのには素直に感心した(というか、SF ではドミニシと並んでバックスの大黒柱でしたね)。
 バックスでは、ホープとして期待されている CTB のマチウ・バスタローを初めて見た。非常にパワフル(V・クレールと同等かな)。そのうちフル代表にも選出されるのだろう。

 今日はシルヴァン・マルコネがフィールドで動いているのを久しぶりに見ることが出来た。それにしても、スコットランド、イタリア、アルゼンチンそれぞれの代表チームのエイトが名を連ねるFW というのは、何とも豪勢な陣容で、サイモン・テイラーが 5 番に入っても、スクラムはやや優勢を保つことができていたし、これで勝てないのは何故だろうという気がしないでもない。スザルゼウスキー(やり過ぎで痛い反則をとられることも少なくないとはいえ、常に全力で好感のもてるプレーヤー)もいるというのに。適当なことを言い放ってしまうと、パリッセ(今日は 6 番に入った)は確かに好い選手なのだが、今以上にディフェンスに力を割いた方がよいのではないか? 彼はボールをもって走ったりパスしたりすることもできるし、これまでもそうやって得点に絡んできたのは事実だが、ランナーとしてはさらに上を行くレギザモンに攻撃は任せて、主将としてはもっとディフェンスをケアした方が、全体的に上手く行くような気がする。
 ホアン・レギザモン。プーマスのメンバーとしては、いわばパリッセ・タイプのロンゴの穴を埋め切れていないと思うが(彼が一人でそっくり埋めなければいけないというわけでもない)、あの体格であのスピード、そしてステップ、すごいですねええ。2007 年 W 杯三位決勝戦では交代で出てきて、フランスの戦意を喪失させる豪快なランを少なくとも二回披露した。その時にも、そして一対一となった FB をあっさり交わした今日のトライを見た時にも改めて思ったけれど、斉藤祐也はこういうエイトになりたかったのだろうなあ(秩父宮のカナダ戦ではそういうプレーがあったけどね)。

 クィンズのニック・エヴァンスはこのマッチは可もなく不可もなくといったところ。今日はとにかく SH のダニー・ケアがチームを文字通り牽引した(プロフェッショナル・ファウルでシンビンに送られても MoM という活躍ぶり)。この人がイングランドの SH でもよさそうに思うのだが、もうベテランなのかと思ったら逆で、まだ若い人だった。

 プレースキックのたびに、場内の大型ビジョンが「二人のキッカーのためにお静かに願います」というメッセージを表示するのだが、効果はほとんどなかった。敵側キッカーの集中力を殺ぐということではなく、「二人」という言い方が示唆するように、要するにフランスの人々は誰が蹴るのであれ、賑やかなのが好きということなのだ。これはそういう性分なので、どうにもならないだろう。

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 負けるとノックアウト・ステージ進出可能性がほぼ消えてしまうクレルモン・オベルニュ(試合前 3 位)が、死に物狂いのゲームで前回覇者マンスター(同 2 位)を破った。今回はホーム・アドバンテージもやはりあったと思うけれど、とにかく次の対戦が鍵である。

 マンスターはプレーのひとつひとつが正確で迷いがなく、喩えていうならよく鍛えられた軍隊を見ているようである。実際に戦争を見た経験はないけれど、機を見てサッと展開するあり方は戦慄的ですらある。R・オガーラのキックは相変わらず好調だし、FW は強く、統率が取れていて、隙があまり感じられない。クレルモンの勝因はまず、当り負けしなかった点だろう。ボールを確保したらとにかく前に出るという(えらく大雑把な言い方ですみません…)チームが、そこで負けてしまっては、マッチを勝ち取ることなどとうていおぼつかない。だから、どちらのチームも(ハーフ団を除いて)攻めては思い切りぶちかまし、守っても思いっきりぶちかますことになる。クレルモンの13番バビだって、あまり技巧は凝らさずに真直ぐ突っ込んでいた。テレビで見ていて「これは凄い」と率直に思ってしまった。要するに、とても豪快な、だが必ずしも大味というわけではなく、勝敗の行方も最後までわからぬという非常に面白い試合だった。

 それにしてもマンスターの攻撃はいつも素早く無駄が無い。ボールが高速で展開される彼らのアタックはやはり見ものである。たとえばオールブラックスと対戦したらどうなるのだろう?と素朴な疑問が湧く。というか、先日対戦していちおうオールブラックスが勝ったんですよね。ともかく、クレルモン側は一次防御では完全には対応しきれていなかったのだが(たとえば 12 番のマフィには再三のラインブレークを許した)、カバーディフェンスが今日は素晴らしく、最終的には 22m ラインの内側への侵入はあまり許さずに終わった。またタックルの力強さには、何か技巧を超えた力が感じられた。
 と同時に、勝利のために PG で着実に点を積み重ねて、トライで逆転。理想の展開といっていいだろう。残り 6 分で 6 点差だが、マンスターにトライを取れる気配はもはやなかった(惜しまれるのはペナルティを与えて 9 点差を保てなかった点である)。

 いずれのチームにも悪質な反則はなかったし、今シーズンのベスト・マッチのひとつとなるのではないだろうか。感動的なゲームだった。わたくしはフランスのクラブだったら今のところクレルモンが一番好きかな(トゥールーズなど見ていないチームが多数あるので、暫定的なものだが)。

〔「ホモソーシャル」ということについて誤解を防ぐために一言。
 委細はイヴ・K・セジウィック『男同士の絆』(名古屋大学出版会、2001 年)を御参照いただきたいのですが、思いっきり簡単にいってしまうと、ミゾジニーとホモフォビアの二点によって特徴づけられるような社会的関係のひとつの歴史的な形ということになります。
たとえば三田誠広『そして笛が鳴り、ぼくらの青春は終わる』の主人公・ライターの女性・写真家の男性という「三角関係」は、セジウィックがイギリス文学に指摘したような「ホモソーシャル」なあり方、とりわけホモフォビアに裏打ちされるようになる 19 世紀型ホモソーシャルの関係と全く同一のものです(チームのセンター・コンビの「関係」も考慮しつつ)。
 それがこの小説の限界ということになるでしょうけれど、でもラグビーのゲームを描いた部分は面白いんですよね。だから、20 世紀に 19 世紀小説を反復するというその時代錯誤を大仰に批判したりはせず(それ自体は造作ないことです)、いつの日か書かれるであろう――本当に?――真の 21 世紀的ラグビー小説にその最良の部分が受け継がれるよう願うことにしたいと思います。〕

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